道人

グレートウォールの道人のレビュー・感想・評価

グレートウォール(2016年製作の映画)
3.0
 昔「テレビくん」やケイブンシャの大百科シリーズなんかの「これが〇〇の秘密基地だ!」的な特集(建物が横からスパッと断面図で載ってるやつ)にドキドキしたことのある人なら、劇中の長城の数々の仕掛けや内部構造に「おお!」と興奮できるんじゃないかと。
 自分は昔、横山光輝先生の『三国志』を読んで「中国は街が丸ごと高い壁で囲まれている」という事を知って異様に興奮し「日本の城と合体させれば最強なんじゃね!?」と街全体を覆う外壁は中国、内城は日本の城、的な異形の小田原城みたいな都市を鎌倉っぽい地形に作るという架空絵図を描いて遊んでたので、長城の描写は滾る!長城の上を騎馬隊が駆け抜けている絵だけでもワクワクしてしまいます。

 そんな魅力的な描写満載の長城なので、最後まで長城を舞台にして戦ってほしかった、という思いはありつつ…。あと、饕餮襲来の第一波からの物語なので「人類最後の砦」としての長城の輝き、三食満足に食べられ集結した精鋭の軍装も美しく、士気も高いままなのですが、第十波くらいまで凌いだ後の疲弊した長城と禁軍の物語も見てみたかったなぁ、と。疲弊しきった禁軍の戦線にウィリアム達が加入する方が「人類最後の戦い」としての悲壮感と高揚感はあった気もしますね。

 しかし、禁軍って皇帝の居城…すなわち首都防衛の軍なんじゃないの? (あの最終決戦の金の鎧を着ていた兵士たちが皇帝の親衛隊?)と思いつつも、まぁ「禁軍」って名前の響きが最強に格好いいから問題ないね!って感じです。
 さてその禁軍、チャン・イーモウ監督の色彩感覚爆発の五色の煌びやかな軍装なのですが(日本の戦国時代・北条の五色備えってこんな感じだったとしたらそりゃあ戦場映えしただろう)、弓に特化した軍団、工兵も兼務する軍団、など、鎧以外にも個性があって面白いですね。私が一番格好いいと思ったのは黒の鎧の熊軍かな。
 その熊軍、『ワールド・ウォーZ』のキービジュアルよろしく互いの体をよじ登るようにして長城に殺到する饕餮と最前線で戦うんですが、縄を腰にくくりつけて壁を垂直に駆け下りよじ登ってくる饕餮と斧で白兵戦を繰り広げるという…こんなに「決死隊!」の召集が悲壮な響きのファンタジー戦記映画もなかなかないですね。
 その熊軍を上回る悲壮さなのが身軽な女性で構成された鶴軍。長城からのバンジージャンプで上空から急降下、長槍で饕餮を上から刺して離脱、ということを繰り返す部隊…なんですけど、ウォーボーイズ的な「ヒャッハー」な高揚感はなく、失敗するとワニワニパニック的にばくんと喰われるので、覚悟を決めた女性兵士でも漏らしてしまう末期の悲鳴も相まって見ているこっちもきつい…。
 鶴軍は実効性より、戦場の華として、男性主体の軍の士気を上げるために配備されてるんじゃ…なんてどす黒い考えも頭をよぎるほどの、消耗を強いられる軍団です…。青い鎧は格好いいんですけどね。『聖闘士星矢』世代には「聖衣大系」の神闘衣や鱗衣あたりの綺麗なメッキの手触りが蘇る懐かしい質感。
 
 アクション的にはウィリアムとトバールの、供に死線をくぐり抜けてきた「腐れ縁」バディが阿吽の呼吸で繰り広げる、長城上での饕餮戦が一番燃えました。お互いの腕を信頼しているからこそのコンビネーション、敵の視線を誘導し、戦友の得意とする間合いに誘導する動きとか。トバールはスペイン出身ということで、きっと出征前は村一番の闘牛士だったのかもな、なんて思ったり。
 ウィリアムは弓の達人ですが、キャプテン・アメリカばりに盾を投げるアクションもあって面白かったな。禁軍側ではリン隊長以外にももっと見せ場がほしかったところ…(最終決戦のラストパーティーは隊長格で固めるともっと燃えた気もしますね。特に鷲軍のチェン隊長とウィリアムの「東西弓の達人」共闘は見てみたかった)。その分、ポンくんが引き立ったのかもしれませんが。
 今回一番印象に残ったのは、そのポンくんの最期の表情。戦場で手の震えが隠せず、最強の熊軍の一員として相応しくないと、食器洗いをさせられていた彼。その彼が命を賭して饕餮に立ち塞がり、ウィリアムを振り返った時の表情は、勇者の笑みというより、どこかぼうっとしていて…ああ、覚悟を決めるより前に体が勝手に動いたんだな、って。

 人物のドラマは色々とぶつ切り感が強い映画でしたが、ウィリアムの「とあるお方には死ぬまで仕えた」発言に、「ああ、きっと金払いがいいだけじゃない、いい主君だったんだろうな」と彼の前半生にも「信任」を感じた主人との関係があったに違いないと感じたり(その主君と正規の騎士の関係に憧れた傭兵時代とか…)、十字軍に所属していたウィリアムが共に黒色火薬を求めて旅をしてきた一団にイスラムの男性がいたことによって重みを増す「我々は西方では敵だが…決して見捨てない」という言葉。その旅程で深まってきた絆に思いを馳せたりと、行間を読む妄想の楽しみはある映画でした。

【2017.05.03 劇場観賞(3D字幕)】字幕 風間綾平さん
 MX4D上映じゃないのに、MX4D対応のスクリーンで観るという珍しい体験をしました。揺れないと足が地につかないごっつい椅子だよなぁ…なんか落ち着かなかったです(笑)。

【パンフレット】720円
松崎健夫さんの映画評が「キネマ旬報」からの転載だったのはちょっと残念でしたが、キャスト・監督のコメントも載っていて写真も多めと、要所は押さえた作り。禁軍の五つの軍団の解説は読んでいて燃えますよ。
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