道人

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊の道人のネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』…おしゃれで色とりどりな包み紙を見るだけでも楽しいアソートチョコレートみたいな映画。ジェフリー・ライト演じるローバックが留置場でこぼす涙があんまりにも美しくてびっくりしました。その涙を見て「泣くな」っていうビル・マーレイ演じる編集長もまた良い。お前さんも絶対心の中で泣いておるんじゃろう。

ウェス監督は差し色(って言っていいのかなぁ)がとても巧みで、監禁された側から、薄暗い世界の僅かな隙間から覗くシアーシャ・ローナンの青い瞳の宝石のような美しさにハッとする。彼女演じる薬物中毒女性と監禁された少年が歌う子守唄のシーンが好き。

全体的にとてもポップな映画なんだけど(物語を彩る架空の雑誌の表紙イラストレーションや劇中アニメーションも最高なのだ。大男〜!)、ポンと出てくる「物体」になってしまった死体の異物感と禍々しさはなんなのだ。これから腐っていくんだろうなぁ、と言う微かな死臭を感じてヤバい。

オムニバスの中では「確固たる(コンクリートの)名作」が一番好きです。ウェス監督はベニチオ・デル・トロで映画を撮ることが念願だったそうだけど、獣性とチャーミングさを併せ持つ彼の魅力を完璧に掬い取ったキャラクター、獄中画家モーゼスがとても良くて。なんなのあの凶暴性と無垢さを秘めた髭面の巨大な赤ん坊は。囚人服がスモックに見えてくる不思議。

看守シモーヌ(レア・セドゥの裸体の美しさにクラクラする)、画商カダージオ(私もエイドリアン・ブロディによしよしされたい)のトリニティな関係がとても好き。ラストカット、この三角形を永遠に閉じ込めた青空の下、土と草の匂いに包まれたコンクリートの箱の美術館のカットが絵葉書みたいに完璧でため息が出ました。
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