道人

カモン カモンの道人のネタバレレビュー・内容・結末

カモン カモン(2021年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

『カモン カモン』モノクロ撮影の効果が最大限発揮されてた作品。みんなの「目の色」が変わる瞬間がこんなにもしっかりと伝わってくる映画も珍しいと思ったけど、それだけ登場人物たちの言葉を交わす様に、バチバチの火花が散っていて、私が彼らの表情に釘付けだったということでもあるんだろうな。

いや、穏やかで楽しいシーンもたくさんあるんですけど、家族であれ子供であれ、「ひとりの人間」として相手を尊重するということは、こんなにも毎日が真剣勝負なのだなぁ、というか…。特に子供を育てる側の人たちの根気と愛情への畏怖すら芽生える。

大人が子供に「この二人で過ごした素晴らしい時間も、きっと君は思い出せなくなる(「あったこと」以上のことは思い出せなくなる)」というニュアンスのことを言う場面で、子供が本当に真剣に「そんなことない」と静かに怒ってたのが印象的だけど、詳細は忘れても、お互い与え合った何かがあったということだけでも、心に残っていればいいんだろうな…。

ホアキン・フェニックス演じるおじさんが自分の弱さ・至らなさにとても誠実に向き合おうとしているのも印象的で、劇中の彼をずっと応援してしまう映画でもありました。
足りないものを自分の中からほじくり出して無理に埋めても、そこに新しい穴が開くだけだし、他者との関わり合いで埋めていくこと、間違いだと思わなくてもいいんじゃないかなぁ、と思ったり。心を病んでしまったパパさんも、人との距離の取り方を少しずつ取り戻して、家族同士でうまくぽっかり開いた穴を柔らかい土でペタペタ埋めていってほしいなぁ、と思います。その時にはきっとあの犬とも自分で散歩できるようになっているといいな。

あと、ハリケーンで大きな被害に遭った地で暮らす少年の言葉も心に残りました。「この家でも男性が死んだんだって。でも彼(幽霊)は僕らを脅かしはしないよ」みたいなことを語ってくれるんだけど、こんなふうに、たくさんの死が大地に刻み込まれてしまった街で、死んだ人たちを身近に感じて、その事実とともに生きていく(自分の中でゆっくり消化していく)かたちもあるんだなぁ、って。

私は電車なんかで赤ん坊や幼児と不意に目が合うと、その視線のストレートさに目を逸らしてしまうタイプの人間なので、『カモン カモン』はとても緊張感に満ちた映画だったとさ、というところです。面白かった。
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