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夢の祭りのtakのレビュー・感想・評価

夢の祭り(1989年製作の映画)
3.6
津軽じょんからを奏でる三味線弾きの世界を描く、作家長部日出雄の監督デビュー作。

三味線の魅力に取り憑かれた農家の青年健吉は、農作業もそこそこに三味線の練習。ついに芸を磨くために放浪の旅へ。じょんからは決まったメロディを奏でるだけではダメで、自分の節を編み出すことが求められる。テクニカルな速弾きを見せつけ、同時にエモーショナルなフレーズでいかに楽器を泣かせるか。そして演奏で、いかに多くの拍手を得ることができるかを競う三味線競争が祭りで行われる。

山籠りをして練習に励む健吉。彼の元に差し入れを持ってきてくれるのは村の娘ちよだった。そのちよをめぐる恋敵として地主の息子勇造が現れる。彼も三味線がうまく、健吉と祭りで争うことになる。その勝者がちよを自分のものにするとの約束をさせられてしまう。勇造はダーティな手段で勝ちをもぎ取る。リベンジに燃える健吉はちよに一年だけ待てと言い、津軽一と呼ばれる名人の元へ行くために雪山に向かう…。

はっきり言えばここから先は「ロッキー」そのもの。健吉に啓示を与えてくれる達人が現れて、彼の演奏で開眼した健吉は自分の節を編み出す。そして再び三味線競争へ。

予備知識皆無で観たもので、予想していなかった熱い展開に見入ってしまう。ロッキーとアポロの殴り合いを観てるのと、ほぼ同じ感覚になった自分に気づく。バチが弦を弾くリズミカルな音に心が高鳴り、ギターのチョーキングかアーミングのようなベンドアップがフレーズに泣きを入れてくる。80年代洋楽好きのために例えるなら、ナイトレンジャーの🎸二枚看板、ブラッド・ギルスとジェフ・ワトソンのプレイを一人で両立するようなもので…わからんよな(笑)

クライマックス。再び窮地に陥る健吉。宙を舞う三味線…。そう来たか!地味なジャケット写真からは、こんなにエンターテイメントだと思わなかった。

あの頃とは違って、上妻宏光や吉田兄弟などの三味線奏者が知られていたり、和楽器バンドや陰陽座など和テイストのロックも存在する今。この映画を初めて観る人にはどう映るんだろう。
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