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光をくれた人のLzのレビュー・感想・評価

光をくれた人(2016年製作の映画)
4.0
誰のせいとか過ちだとか、罪を深追いするのはもう野暮。ここではそんなことを掘り下げる意味は無くて、誰かしらを愛し続けることを約束出来ればただそれで、償われるものがあるのではないだろうかと、思い続けるしか、できない…。

人を愛したくなる映画。
幸せを本当の意味で大事に出来る人であったが故に、トムの決断はこんな事態を招いてしまったのだと思う。トムは全ての人を愛した。光をくれた彼女も、娘も、島も灯台も街の人も、そして哀しむ寡婦も。
イザベルが光に満ち溢れた人であったならば、トムは愛に満ち溢れた人。そんな彼の中に絶えずあったのは、それに伴う、それ相応の責任だった。

DNA鑑定なんて無い時代、事実を隠そうものなら、とことん隠すことなんて容易かったと思う。だから、トムにとってはばれるかばれないかが問題ではなく、正しいか否かという、倫理的な問題を案じていた。しかしそれだけではなく、同時に、愛の行き先というのも彼には一つの問題だった。このまま突き進むことによって発生する愛の類は、果たして手放しに愛と呼べるものなのか。愛ではなくなってしまわないか。誰による愛情も決して無下に出来ない彼だからこその、決断だったのかもしれない。

何かを愛する者は時にがむしゃらで、彼はそれに加えてとても繊細な愛情の持ち主だった。後先を考えず盲目に突き進むのではなく、全ての角度から相手を見定め、真剣に愛する人のことを考え、そして行動に移した。例えそれが誰かを苦しめることになろうとも、彼にとってのこの苦渋の決断は、愛に満ち溢れた彼だからこそのものだった。

柔らかな日差しの中で華やかな美しさを放つイザベル。とても綺麗で、温かくて、常に輝いている真っ直ぐな女性。彼女は自分の信じた愛を必死に貫き、残そうとした。幸せを知って、それを大事に大事に心に収めている彼女だからこそ、涙を流す姿は悲哀に満ち溢れていた。彼女が苦しい胸の内を晒す度に、本当に本当に辛くて堪らなかった。けれど、重たく響く彼女の愛は、決してトムにとって負担となっているわけではない。むしろ、トムの誠実な愛を照らし出す素晴らしいパートナーだった。それは出逢いから終わりまで、ずっと。

ハラハラドキドキ、緊迫感のあるシーンもあって、静謐な映画ながら退屈のしない傑作だっ。リアルタイムで観られて良かった。
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