サマセット7

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリーのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.9
スターウォーズシリーズ、スピンオフ第一弾。
作中時系列では、エピソード3と4の間、エピソード4直前を描いた作品。
監督は「モンスターズ地球外生命体」「Godzillaゴジラ」のギャレス・エドワーズ。
主演は「今日、キミと会えたら」「博士と彼女のセオリー」のフェリシティ・ジョーンズ。

遠い昔、はるか彼方の銀河系で…。
銀河帝国は銀河全体を統制下に置きつつあった。
超兵器デス・スターの完成間近にあって、開発を強いられたゲイレン・アーソは妻を奪った帝国に対する復讐として、デス・スターに関する重要な情報を帝国軍パイロットに託し、反乱軍過激派の旧知の戦士ソウ・ゲレラの元に向かわせる。
一方その情報を掴んだ反乱軍主流派は、ソウと接触を図るため、一人の女性に目をつける。彼女は、ゲイレン・アーソの息女、ジン・アーソであった。
今作は、エピソード4 冒頭でレイア姫が手にしていた要塞デス・スターの設計図を入手するため、決死の作戦に挑んだ、名もなき戦士たちの物語である…。

創造者ジョージ・ルーカスが6部作を完結させたスターウォーズシリーズは、最終的にディズニーが権利を取得。完全にルーカスの手を離れた。
ドル箱を手にしたディズニーは、エピソード7、8、9を隔年で公開し、その合間にスピンオフ作品を公開するという、巨大プロジェクトをぶち上げた。
今作は、スピンオフの方の第一弾である。

2020年10月現在、世界歴代興行収入ランキング36位。堂々の大ヒットとなった。
一般的な評価はまずまずといったところだが、人によっては正伝も含むシリーズ最高傑作との声もある。

エピソード4 の冒頭の設計図を手にするための栄光の影に隠れた名もなき戦士たちの戦いを描く、というアイデアは、その時点で胸を熱くする素晴らしいもの。
このアイデアの時点で今作は成功している。

今作の見どころは、とにかくスターウォーズの世界観でがちゃがちゃやっていることの多幸感、ドロイドK-2SOや盲目の達人チアルート、猪突猛進のラダス提督といったサブキャラクターたちの個性、後半の決死のミッションの胸熱感、そして、キャラクターやストーリーがエピソード4 につながることのカタルシスにある。

今作の監督は、ハリウッド版ゴジラの監督ギャレス・エドワーズ。
過去の名作を、思い入れたっぷりに現在の最新技術でリブートすることに、狂おしい情熱を抱く人物である。
今作でも、彼のスターウォーズシリーズに対する愛情が爆発している。
宇宙船のエピソード4につながる造型、雑然とした市井の描写、人間と非人間が混在する独特の世界観など、スターウォーズ世界の模写としてレベルが高い。
シリーズファンへの目配せも随所に仕込まれており、ファンならば、この世界観と歴史の中でストーリーが語られること自体が、ご褒美であり、観ているだけで多幸感がある。

今作は七人の侍的な、メインストリームから外れたならず者たちが集まって、大義のために戦う話である。
こういった話では、仲間たちのキャラクターが大事になるが、残念ながら尺の問題もあり、主人公ジンやキャシアンをはじめ、一人一人魅力について深く掘り下げた描写がされているとまでは言い難い。
その中でも、何人かのキャラクターは見るべき魅力を放っている。

帝国のドロイドを撤収して、プログラムを書き換え味方にしているK-2SOは、独特のシニカルな言葉の数々を口にするシリーズお約束のコメディリリーフ的なキャラクターだが、後半には熱い活躍を見せて涙を誘う。

ワンスアポン・アタイム・イン・チャイナやイップマンシリーズなどで知られる武術の達人ドニー・イェン演じる盲目の浪人チアルートは、シリーズ中でも異次元のカンフーアクションを見せて異様な存在感を見せる。
どう考えても正伝のジェダイより動きがキレている!
盲目の拳士というキャラクター造形はドニーのアイデアらしいが、明らかに座頭市オマージュだろう。
チアン・ウェン演じる相棒ベイズと並び、アジア人俳優がシリーズ中初めて主要キャラクターを演じる点も意義深い。
彼らの見せ場が多くないのは残念なところで、チアルートと相棒ベイズの活躍だけを描いたスピンオフを見てみたいくらいだ。

反乱軍のラダス提督は、水生生物めいた外見のエイリアンで、なぜかジンの主張を全面支持し、自ら艦隊を率いて死地に突っ込む好漢。
銀英伝のビッテンフェルトのような猪突猛進野郎だが、歴史を動かすには良い子ちゃんだけではダメで、彼のような頭のネジが外れた行動力が必要なのだろうという、奇妙な説得力がある。

主人公ジンの父親との切ない関係と継承する決意の尊さ、キャプテン・キャシアン・アンドーの任務と人情の間の葛藤、大義のために生きる潔さといったあたりも描写され、彼らの行動を理解する補助線となっている。
はっきり言って彼らは超大作の主役たちとしては大変地味なキャラクターだが、今作のテーマに照らすと意図的であろう。

今作のメインストーリーは言うまでもなく、帝国の恐るべき超兵器の設計図の奪還作戦である。
作品の構造上、今作の前半部分は、その作戦の壮大な前振りである。
盛り上がりは潔いまでに、全て後半、特に終盤に集中しているため、前半の鑑賞には正直言って、やや忍耐を強いられる。
ここは世界観を味わったり、キャラクターの背景に想いを馳せたりと、シリーズファンである観客の能動的な読み取りに依存している部分と言えようか。

潔い構成ゆえに、後半の壮絶な決死の作戦の盛り上がりは素晴らしい。
ジェダイのような異能を持たないごく普通のキャラクターたちが、大義のために、なけなしの勇気を振り絞って、戦いに身を捧げ、希望を繋いでいく様は、哀愁に満ちていて、なかなか感動的である。
ただ、最終盤に至るまでは、まだ今作は普通の作品の域を出ない。

今作で最もカタルシスを感じるのは、最終盤の、宇宙船内回廊における一連の流れである。
シリーズを象徴する絶大なる戦力に対抗するのは誰だったか。
ごく短いこのシーンにこそ、今作の魅力とテーマが凝縮されている。
今作の全ては、このシーンを描くために用意されたと言ってよかろう。
これこそ映画の「演出」というものだ。
このシーンを見るためだけでも、今作の長尺に付き合う価値がある。

観客の見たいものをチラ見せさせつつ、焦らして焦らして焦らしまくる演出は、ギャレス・エドワーズ監督がゴジラでも見せていたもので、良くも悪くもこの監督の特徴なのだろう。
今作ではこの個性が良い方向に効いている。

ラストシーン、最新のCGも効果的に活用され、エピソード4の冒頭10分前に繋がる演出は最後のパズルがピタッとハマった快感がある。

今作のテーマは、歴史は名もなき者たちが作る!である。
このテーマはハリウッド版ゴジラの人間描写でも見られたもので、監督の好みのテーマなのかも知れない。
英雄ジェダイの騎士の物語である正伝、特にエピソード4 から6を振り返ると、このテーマは一際沁みる。
まさしくスピンオフで語るにふさわしく、テーマの選択にシリーズの熱狂的ファンらしいセンスを感じる。
またこのテーマ自体に、映画の観客たち一人一人を力づけるメッセージ性がある。

シリーズファンによる、シリーズファンのためのスピンオフの力作。
なお、お約束のオープニングクロールがないこと、惑星名にテロップがあることは、正伝と区別する意味で、意図的なものだろう。
個人的には、スターウォーズ世界を語る以上、正伝と同じにしてよかったと思うのだが。