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コスモスの1000のレビュー・感想・評価

コスモス(2015年製作の映画)
4.4
まったく一寸先はズラウスキーということで、次の瞬間画面になにが写っているのかてんで予想のつかない映画だった。
アヴァンギャル度高めな不条理コメディ。人妻の脚がエロすぎて「もうやめてくれ……」って白目むくの、笑うなと言うほうが酷だ。香港ノワール風のダサすぎるサントラが流れてはぶつ切りになるのも、毎回笑ってしまう。

ヒステリー、錯乱、ミステリー、絶叫。奇人変人大集合でお送りする、「こんなゲストハウスは嫌だ」。『赤と黒』の男女関係に『嘔吐』の実存的問いを絡めて、焦げるまで煮込んだらこうなったという趣だが、こんなにもまともじゃないことがあらかじめ保証されている監督はズラウスキーかパゾリーニぐらいだろう。クレイジーという以外の説明が野暮に思えてくるほど。原作小説も読んでみたいな。

「贄」となる動物の死体と小物たちが醸す物言わぬ不気味さと、フェリー二的人物たちのやかましさが好対照をなしている。これだけお膳立てされておいて、いよいよという場面になっても「火」が出てこなかったのは逆に新鮮だった。屋敷ごと全部燃えて消えてしまうのは、あまりにも適切な結末のように思われるのだが、海と雨というふたつの「水」がそれとは別のオチ(丁寧にも2ルート用意される)へと導いていく。焼失よりも腐敗、という終末のあり方にはなるほどと思わされたが、唐突な印象を与えないのはあらかじめ墓や苔といったモチーフが配置されていたからだろう。そういえば、見たことのあるズラウスキーはどれも曇天で、ビシャビシャしていた気がする。

雰囲気的に、60〜70年代イタリアのモダニズム映画を見ている気分だった。ラスト(ラストではない)のたなびく木もイタリア映画っぽい。ほとんど唯一の現代的な道具として映るMacBookにすごく違和感があったが、あの気味悪すぎるテキストエディタもよかった。
アントニオーニやベルトルッチのような話運びが好きな人にはかなりおすすめできる作品だ。

こんな訳のわからない話を、全力で演じ抜ける役者はよほど強靭な心臓の持ち主なのだろう。
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