なれそめの年と13年後とのあいだに欠けている場面があり、それは最後の10分で補われる。
13年前に訪れた同じ秘密の浜辺に、今度は自動車で向かう二人に、偶然通りかかるバイクに乗ったカップル、それはまるであのときの二人みたいで、そこから永劫回帰のようにして、欠落していた場面がフラッシュバックする。
そこでエレナ・シルヴィア・ファビオの三人が大笑いするところがすてきで、死の影の濃く漂うエンディングを、この楽しいラストシーンが救い、さわやかな後味になった。
ゲイのファビオとの友情にエレナはいつも助けられてきたのだなと思う。決して恋人同士にはなりえないのに、恋人以上になんでも話せる関係なのだろう。オズペテク監督自身がゲイであることをオープンにしているらしい。ゲイの人間がヘテロの人々とどのように友情関係を築いていけるのか、考えさせられる。
いっぽうのアントニオは露骨に人種差別的でホモフォビアで、結婚後も平気で愛人を作り、サッカーにかまけて家事をおろそかにする、典型的なダメ亭主。人種差別のことは初対面の時からわかっていたはずなのに、落ちてしまうのが恋なのだろうか。
障害なのか無学なのかわからないが、アントニオが簡単な文章を読むのに難儀するところ、彼がはじめて意外な弱さを見せたときの、エレナの表情、あのときにエレナの気持ちがアントニオのほうに傾きはじめたかもしれない。
あのエレナの表情は、無学な者への憐憫でも軽蔑でもなくて、あ、この人には何かある、この人のことをもっと知りたい、という、なんだろう、好奇心でもない、古い日本語でいえば「ゆかしい」、未知のものへ開かれた表情ではなかっただろうか。
アントニオの愛人でもある美容師に、自分が癌であることをさらりと告げて立ち去っていくエレナがかっこいい。かつらは何色にするの?と後ろ姿にたずねる美容師に、Rossa! 赤毛!と叫ぶところ。
エレナ役のカシア・スムトゥニアクが魅力的。母語はポーランド語なのにネイティブのイタリア人みたい。