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ブレンダンとケルズの秘密のykzrのネタバレレビュー・内容・結末

ブレンダンとケルズの秘密(2009年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画は、世界で最も美しい本「ケルズの書」が完成するまでの物語だ。
恥ずかしい話だが視聴中殆どピンときておらず、最後に出来上がった本の有名な1ページを見て思わず声を上げてしまった。「あの装飾本ができるまでの話だったのか!」学生時代の西洋美術史以来、2度目の対面である。
世界で最も美しい本を取り扱うだけのことはあり、まずすべての映像が美しい。繊細な紋様や、絵画的な構図、宗教画やステンドグラスを連想させる人物たち、ケルト音楽など、芸術的な表現が秀逸だ。
この映画で気になったことは3点ある。
まず、話全体が宗教ベースになっていることだ。そのため、信仰心というのが非常に重要で、「書物に記し、信仰を伝える」という使命を忘れた主人公の叔父をはじめとする街の人々はバイキングに蹂躙されてしまった。しかし、書を残すことを辞めなかった主人公と翁は救済(と定義しておくが、心の救済はこの時点ではなかった)されていた。信仰心を欠くものには罰を、という印象を感じた。
次にケルト神話には欠かせない犬(狼)たちであるが、この映画にも主人公を導く者として登場する。アシュリンを見た際、クランの犬を思い出した。絶対違うだろうが、アイリッシュとクー・フーリン(ク・ホリン)から来てたら面白いと思った。
最後にこの話が貴種流離譚であることだ。かなり後半は短いが(青年期はラスト10分)、ケルト神話の主人公の如き設定と流れである。教会の院長の甥が狼に導かれ、勇気を持って冒険し、力(宝)を手に入れる。しかし、異教徒に全てを奪われ、身分を捨て去り、目的を達成するために流浪する。最後には故郷へと成すべきことを達成した状態で戻ってくる。まさに貴種流離譚だと感じた。
全体的にまとまっているが、宗教や神話的要素が多いため、拾い切るのが難しかった。しかし、国や自分達が敵の脅威に晒されている時こそ、書物や芸術として残す、という在り方には共感と好感が持てた。これまでの芸術はほとんどがそうして生み出され、残ってきている。それをさいにんしきすることのできる映画だった。
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