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ラ・ラ・ランドのsatoshiのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.1
 今、巷で最も話題になっているミュージカル映画。「セッション」で大興奮した身としては、公開前から楽しみにしていました。しかし、鑑賞してみると、今いち映画に乗ることができませんでした。良い映画だとは思いますし、色々とレベルが高い作品だと思います。しかし、何か胸の内にモヤモヤが残るのです。

 理由は、今作が主人公たち2人だけを描き、他の要素をバッサリ切っているからだと思います。今作は最初から最後まで主人公とヒロインに焦点が当てられ、2人の関係と、夢を追う姿を中心に描いています。なので、今作には、この2人以外、きちんとした意思を持った登場人物がいません。出てきても性格はテンプレ的で、皆背景なのです。それを強く感じたのが映画館のシーンで、ミアは上映が始まっているスクリーンの前に立ち、セブを探すという暴挙に出ますが、誰一人まともに反応しないのです。しかも、直接文句を言わないだけならまだしも、1人として迷惑そうな顔をしている人がいません。完全に背景です。

 また、夢を追う姿にしても、成功する過程もほぼバッサリと切っています。ミアに関しては少し描写がありましたが、セブはバッサリ切られています。普通は他人に指摘されたり、張り合うことで自身を成長させていくものですが、「他者」が全く登場しないので、成功理由が漠然としたままです。つまり、外的な要因も切っているわけです。

 この「2人に焦点を当てる」ことは「セッション」も同じです。ですが、あちらは楽団内という非常に狭く、限定的な空間で話が展開していたため、2人にしか焦点が当たらなくても気になりませんでしたが、今作の2人はいい大人で、曲がりなりにも社会で生きている人間です。なので、社会や外部を描かないことに違和感を抱きます。

 しかしこの映画、そもそもそういう映画なのですよね。タイトルである「ラ・ラ・ランド」にしても、「夢見がち」「現実見えてない」という意味があるそうです。また、世界に2人しかいないような描写も、ラブストーリーであるならば、ある意味当然のことだと思います。なので、監督はおそらく意識的にやっていると思います。

 こうなると、合う合わないの問題になってきて、私は合わなかったということです。少し寂しい。年月を経ればまた違うのでしょうか・・・。

 ここまで色々書きましたけど、その他の面では非常にレベルが高くて、素晴らしい作品だと思います。

 例えばストーリーですが、大きく前半と後半に分かれていて、前半は往年のミュージカル映画を思わせる色彩とテンションで、まさに夢を見ているかのような内容です。そして後半は結ばれたその先の話で、段々と「現実」に話が寄っていきます。そしてこの2つをさらに春夏秋冬で区切っています。それぞれには意味があり、上手くいかない2人が出会うまでの「冬の時代」を描いた「冬」。結ばれ、辛い季節が終わりを告げる「春」。辛い季節が終わり、2人の気持ちが燃え上がる「夏」。そして、燃え上がった気持ちが落ち着き、別れる「秋」。そして、エピローグの「5年後の冬」です。

 このエピローグが本当に良いのですね。上のようにグダグダと考えてしまいますが、問答無用のこのエピローグによって、全てが許せます。何という力業でしょう。ただし、力業すぎるが故、「無理やり納得させられた」感もあります。

 このエピローグによって、2人の「夢」が描かれますが、もはやこの2人は別々の道を歩いています。ここには、「もう夢は見ていられない」という彼らの気持ちが反映されていると思います。また、セブがラストにカウントをしますが、あれも「俺は自分の道行くよ」という宣言かな、と思いました。
 
 こうしてみると、今作は、夢見がちだったカップルが現実と向き合う話なのだと思います。この内容ならば、見事なくらい成功しています。

 他にも冒頭の素晴らしいミュージカルシーンとか、シーンごとの完成度とか、曲とか美術とか、もちろん役者の2人とか、全て良いです。ですが、やはり上記内容で乗れなかった、という感じです。
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