Inagaquilala

LION ライオン 25年目のただいまのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.9
もし「ムーンライト」が候補にノミネートされていなかったら、「ラ・ラ・ランド」よりもこちらのほうが作品賞に有力ではなかったかと観ていて思った。それほど王道を行くヒューマンドラマだ。

一緒に仕事を探しに来ていた兄とはぐれてしまい、そのまま列車で1600kmも離れたカルカッタまで連れていかれ迷子になってしまった5歳の少年サルー。幸運なことに、オーストラリアのタスマニア島に住む夫婦の養子となり、何不自由なく育ったサルーだったが、25年後、かすかな記憶を頼りに兄と母を探し始める。

作品の最初にもクレジットされるが、実際にあったリアルストーリーだということ。探す手段としてGoogle Earthが用いられるのだが(現実ではFacebookも活用されたというがスポンサードの関係で省かれたか?!)、これがサハラ砂漠で失くした指輪を探すような困難な作業。劇中でもこの部分は詳細に描かれる(Googleにとってはかなり良い宣伝か)。

作品では、まずインドを舞台に、兄とサルーの交流、そして運命の生き別れ、迷子になりサルーが施設に収容され、養子としてもらわれていくまでが描かれる。時代は1986年だが、いまも依然と続くインドの社会的負の断面を巧みに見せながら、ひとりぼっちになったサルーの孤独を繊細に描写していく。

続いて25年後。サルーはすっかり成長していて、恋人もでき、順風満帆な生活を送っている。ある日、インド料理が供されたパーティーで、サルーは子供の頃、兄に買ってくれとせがんだ真っ赤な揚げ菓子を見つける。それとともにサルーの思いは故郷に残してきた兄と母に飛ぶ(まるで「失われし時を求めて」のプチ・マドレーヌのようだ)。そこからGoogle Earthを頼りに、まずは自分の故郷を探すことから始まるが、ただその範囲は半径1600kmにもわたり、かなり困難な作業となる。

全体としてやや不満だったのは、オーストラリアに来てから青年になるまでのサルーの生活があまり描かれていない点だ。遅れて養子でもらわれてきたマントッシュはやや性格に難しいところがあり、養母ともあまりうまくいかず、サルーがそれをカバーしてきたことに少し触れられるが、その他はあまり少年時代の描写はあまりない。上映時間の関係もあるのだろうが、前半のインドの部分を少し削っても、そのオーストラリア時代のエピソードは必要だったのではないかと思った。

プローモーションなどでは、ラスト2秒の驚きと感動とか喧伝されているが、それほどこのくだりは重要ではない。むしろ、それよりもこの実話に基づいた物語をしっかりと味わうべきであると思う。あえて念押しのように、実際のご本人たちの映像も流されるが、これもあまり必要ないように思う。それよりもひとつの物語として完成度を高めたほうがいいようにも思った。

「ライオン」というタイトルについては、観てのお楽しみかも。成年したサルーの髪型がライオンのタテガミのように見えたので早合点したが、けっしてそうではないので、あしからず。
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