あゆみ

イット・フォローズのあゆみのネタバレレビュー・内容・結末

イット・フォローズ(2014年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

最初見終わった時は若者の安易な性交渉を批判してるのかなと思ったけど、監督の説明を調べて全然違うんだとわかって、『it=死への恐怖感』っていう解釈で見直して見るとすごく面白かった。

遠くにいるなにかが、そのなにかだけが周りの人間のランダムな動きと違って、ただ自分へ向かって真っすぐ歩いてくる。あんなに遠くにいるのにそれがわかる。あれは自分の方に向かってきているのかもしれない、という嫌な予感が、明らかに近づいてきている、という確信に変わる瞬間の、逃げ出さずにはいられない恐怖。大学の講義室から外を眺めるシーンがもう本当に怖くて最高だった。itがテレビ投げたりして直接アタックしてくる瞬間は、パニックだしちょっと滑稽だしであんまり怖くない。そういうところも、いざ死ぬ瞬間になると恐怖を感じる暇がなくて、避けようのない死が自分に少しずつ近づいてきていると認識した時が一番怖ろしいっていう感じが出ていて、よかった。

あとは主人公組の友達がみんな「やる事ないけどとりあえず集まってる」感を出しててそれがとてもよかった。暇だからなんとなく集まってきてトランプしたりテレビ見たり、誰かが困ってるから手伝いたいけど、移動が長くて疲れるから車の中ではずっと寝ちゃう。ずっと寝てるだけの人も当たり前に頭数に入ってて、どうでもいい話をしてるか別に話すこともなくだらだらしてるかで、本当の青春って多分そういうものなんだろうと思う。別に誰の性も乱れてなくて普通の恋愛をしてて、その中で死への恐怖とかいう人類が誰ひとり勝てなかったものに立ち向かう感じが、すごく青春を感じさせて、itを感電させようと頑張るくだりとかはなんか感動してしまった。洋館のプールのシーンは、外の土砂降りや雷を聞きながら暗いプールで泳ぐっていう独特の雰囲気がとてもよかった。死体や道や海辺を撮る時なんかもスタイリッシュな画面が多くて、音楽もかっこよくて、単なる設定勝負のB級ホラーとは違うなあと思う。

どんな事をしようとitからは絶対に逃げきれないし、誰の後ろにもついてくる。でも、itを少しの間遠ざける事はできるし、itに立ち向かう事もできる。だからラストは後ろに小さく見えるitじゃなくて、手を繋いでitごと生きる事にした2人をメインに映している。生きている限りなくならない恐怖を遠ざけ、それに対抗するための手段に、この監督は愛情を選んだ、っていうのはとてもいい話だなと思う。途中は正気を保てないくらい怖かったけど、あのついてくるものは得体の知れないおぞましいものじゃなくて、誰でも持ってるものなんだ、と思うと後味も全然悪くなかった。

メタファーやメッセージ性がたくさんある映画が高尚だとは全く思わないし、『監督がこの映画で伝えようとしたこと』を見つける事を鑑賞の主軸にしてしまうと、正解が存在して100点により近い理解をした人が優秀っていうバカみたいな減点法になってしまうから好きではないんだけど、これは自分が全然物語をわかってなかったので、監督の説明を聞いてずっと面白く見る事ができるようになって、よかった。これからどんなものを撮るのか、気になる監督を見つけられたいい映画だった。
あゆみ

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