鈍亀

マネー・ショート 華麗なる大逆転の鈍亀のレビュー・感想・評価

4.4
リーマンショックの全貌を知らない無知な人間だったが、難しい用語は割と分かりやすく説明していて、話が入りやすかった。
物語の軸として語られるのは、大衆とは違う方向を向き、売り切って利益を獲得した投資家やファンドマネージャーだ。しかし、その彼らの背後には笑みを浮かべマネーゲームに興じる持てるものたちや割りを喰う低所得者たちの叫びが常に存在している。金融商品として取り扱われているのは人生の糧となるはずの他者の金だ。この物語に爽快感や完全なる勝者と呼ばれる人間はいない。数百万人に及ぶ人生の破綻が現実としてそこにある。黒澤明の『七人の侍』で勝利したのは侍達ではなかった。その時の体験と似た虚無感を覚える。
描かれるのは信じられないくらいの虚構と現実だ。金融商品をかじれば馬鹿馬鹿しく信じられないような話はごまんとあるが、実際に世界を巻き込み多くの人が辛酸を舐めた出来事だという事実を認識しながら観ると今私達の生きる世界がどれほど不安定でおかしなものなのかを理解し、銃口を突きつけられているようなそんな気分になるだろう。
必要最低限、金融知識を持っていたほうが楽しめるのは間違いない。映画初心者で基礎知識のない方は理解できない人もいるかもしれないし、日本名のタイトルが信じられないくらいダサくて内容を理解していない名づけ方でため息が出るが、この作品は紛れもない金融映画の傑作だ。
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