小波norisuke

マネー・ショート 華麗なる大逆転の小波norisukeのレビュー・感想・評価

3.5
サブプライム・ローンによるバブル経済の内実をいち早く見抜き、リーマン・ショックを勝ち抜けた男たちを描く。

この映画でも描かれているように、多くの人が職を失い、家を失う顛末を待ち望むのは、不謹慎であるとは思う。しかし、あまりにも欺瞞に満ちた世界の中で、無責任に浮かれ騒ぐ人々を見せられると、早くこんな虚構は崩れてしまえと、ついつい願ってしまう。

金融用語が飛び交うが、大筋は理解できる。むしろ、さっぱり意味がわからなかったリーマン・ショックについて、少しわかった気になった。大事な用語は、わかりやすく解説してもくれる。その解説の仕方も、堅苦しくなく、愉快だ。映画の冒頭で、 専門用語は素人を煙に巻くためのものだ、と言ってくれるので、途中でわからなくなっても、仕方ないと思える。やはり少し悔しくはあるけれど。

主役は、スティーブ・カレルだと思う。カレルが演じるファンド会社の人間に一番共感できた。彼が原子爆弾ほどの脅威に思える経済破綻を、"Bang!"と言い表すシーンが痛快だ。愚かだと嘲笑われてきた人間が、実はとても利口であったことを誰もが知る瞬間である。カレルは複雑な葛藤を抱える人物を、熱く、しかし繊細に演じていた。

クリスチャン・ベールも相変わらず巧い。作品ごとに別人のようだ。人から理解されにくい、独特の個性の人物を見事に演じていた。

ライアン・ゴスリングは色気のある役を演じることが多いが、今回は色気を封印している。浮かれた世界に溺れることなく、冷静に真実を理解して行動するバンカーにうまくはまっていた。

マーク・トウエインの言葉で始まり、途中で村上春樹の言葉が挿入される。劇中の台詞も哲学的で味わい深い。「人は見たくない真実は見ようとしない」は、まさに自分のことなので耳が痛い。

複雑怪奇な金融システムを題材にしながらも、軽快に、そして痛烈に社会を諷刺した快作だ。

 
小波norisuke

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