<概説>
キリスト×現代×ミュージカル
トンチキ方程式によって完成した異色の神話ミュージカル。三大宗教の一角を成立させた聖人は、一体如何にして磔となったのか。
<感想>
まず未見の方に釈明しておきます。
本作のテーマや作風はトンチキ極まりないですが、やっていることは存外シリアスです。深みがありますよ。
「私は、金が欲しさにあの人について歩いていたのです」
太宰治による同主題作品『駆込み訴え』よりの一言。
この一言にはユダのキリストへの様々な情念が込められているのですが、本作にしてもユダやピラト総督といったキリストの敵にこそ目が行きます。
キリストを神格化する視線はいまや数知れず。
しかしキリストの敵こそがキリスト個人に視線を向け、キリスト個人を社会から掬い上げようとしていた。愛ゆえに裏切り、愛ゆえに死を宣告する。
このままならなさこそが人間らしく、心動かされます。
≪汝の敵を愛せよ≫
この一節は非キリスト教徒にも有名ですが、ユダやピラトはまた違った意味で、彼等の敵キリストを愛していたように見えてなりません。