emily

ボヴァリー夫人のemilyのレビュー・感想・評価

ボヴァリー夫人(2014年製作の映画)
3.8
不倫小説の金字塔とも言われるフローベールの代表作をなんとミア・ワシコウスカが主役を務める。物語は修道女出のエマが結婚するも、自分が思い描いた物とは全く違っており、とらわれた心を開放するように、洋服やインテリアにどんどんお金をつぎ込み、禁断の愛に身を投じていく物語。そうして夢から覚めると、何もなくなっている現実が重石のように立ちはだかってくる。

個人的にはマダムボヴァリーとミアのイメージに合わない気がしていたが、実際作品を見ると、良い意味で彼女のアクが消されており、その役に溶け込み繊細さと気品さがしっかり漂ったボヴァリー夫人が出来上がっていた。当然濡れ場シーンもあり、相手役も申し分のない端麗な容姿のエズラ・ミラーなどで、妖艶な空気感をしっかり演出されている。

夫の過去の物語は一切排除し、原作をシンプル化し、限られた時間でその世界観と心情を描く。夫は平凡な医者でお金持ちではないが、毎朝早い時間に仕事に向かい、真面目に日々を積み重ねてる男である。ただ彼はエマにあまり関心を寄せてくれず、鈍感な部分があり、彼女がどんどんインテリアや洋服に染まっていけど、何も言わない。

エマは花が開いたように、深い緑や深い青のシンプルなドレスから、豪華で鮮やかなドレスに身をまとい、次々と新しい装いが増え、笑顔が煌いてくるのです。彼女の一変した笑顔や、目の奥の輝き衣装やインテリアの数々と、これから訪れる悲劇との対比が美しく、その世界に観客を魅了していく。男にふられると精神を病むほど落ち込んでしまう。軽い描写ではあるが、心が満たされたような気がする瞬間からのエマの変貌はしっかりと描かれている。求めても求めても、その心と身体は満たされる事がない、人間の嵯峨が切なく彼女を堕落させていく。

まるで絵画のような風景に配置された人。人物の配置も計算されており、カテドラルや風景のはかない美しさを遠くからのカメラでしっかりと収める。特に印象に残るのは冒頭のエマが苦しそうに走ってくるシーンだ。これはラストと同じシークエンスで、その謎が明かされるように物語が幕を開けるのだが、
美しい森の映像の中に奥のほうからエマが走ってくる。そうして道が2本に分かれるのだ。彼女は迷いなく一本の道を選ぶ。まるでこれから語られる物語に選択の枝分かれが予知されているようで、その間違った選択と転落を彷彿させるのだ。このシークエンスとラストが繋がるまるで丸い円のように、過ちを繰り返していく人間の罪深きをあぶりだすようだ。

一度知ってしまった華やかな世界は、麻薬のように蝕んでいく。求めても求めても満たされない心と身体、ものにあふれ、男が周りにいてもその欲は果てることないのだ。そんな世界を見なければ、知らなければ、現状で満足できて幸せを見出すことができただろう。しかし分かっていても人は繰り返すのだ。そうしてたいてい気が付いた時は取り返しのつかない現実に戻っていくるのだ。現実と夢のバランスを崩すと、現実が見えなくなる。しかしその夢はいつかは絶対に覚めるのだ。たとえどんな形であれ・・
emily

emily