【不死鳥に焼かれる】
DVDで。わかり易い映画で、薄いけれど余韻がある。オールドファッションの底に、少し新しさが匂う。ニーナさん演じるネリーに少し鮮度あり。
そして全編覆う淀んだ空気に、少し酔う。実際の戦後の空気とは違うでしょうが、その遣る瀬無さに説得力がある。ドイツではずっと、戦時の記憶が常温保存されてきたのだろうか。
何故ネリーが妻だとバレない?と疑問が湧く、夫の鈍感力に頼った脚本に弱さは感じる。しかし夫も戦争で心を壊された、とも匂うので、ひどく気にはならない。あのラストでは夫が本物のバカに見えちゃうけどね(笑)。
主要人物の対比がわかり易い。
ネリーを助けるユダヤ女性は、ナチスへの憎悪に燃えるも、過去に囚われてしまう。
対するネリーは、ナチスへの蛮行糾弾は二の次。顔さえ失くした彼女はとにかく「元に戻りたい」んですね。それは退行とは映らず、生きるための前進。平和を「取り戻す」願いでもあり、報復ループ戦争を続ける現代への、小さなアンチテーゼに映りました。
夫とネリーがまた違っていて、夫は人生リセットしたいんですね。死んだと決めつけた妻は、もう過去の遺物でしかない。
原題『PHOENIX』(不死鳥)に始め違和感あったのですが、まずは妻の甦りを「偽装したい」夫の願いとわかると納得しました。ネリーにわざわざ赤い服を着せるのは、フェニックスはギリシア語で赤(炎の色)を意味するからだろうと思います。
ネリーは、「元に戻りたい」が願いだから、壊れたパズルのピースをコツコツと集める。そして最後のピースがあの歌だった、というお話ですね。
しかし、完成した絵は以前と同じものなのか?というのが本作の沸点。
夫は結果的に、妻のパズルを完成させる手助けをしていた?壊れたままでよかったのに…(笑)。
不死鳥からの手ひどいしっぺ返し。ニーナ・ホスさん、本作でもいいですねえ。私はこういうシャープな美熟女さん、大好きです。
<2016.4.21記>