MikiMickle

獣は月夜に夢を見るのMikiMickleのレビュー・感想・評価

獣は月夜に夢を見る(2014年製作の映画)
3.5
荒涼とした寒々しい港町。
本来なら青春真っ只中のマリー。彼女が今出来る事は、車椅子の母の口元に食べ物を与え、介護し、冷たい海へと散歩する事。一言も声を発する事の無い母の病気についてはなにも知らない。
新しい職場の男ばかりの魚処理工場では荒っぽい新人割礼を受ける。小さい街故に、母の事で疎外されいじめも受ける。母の過去に何があったのか…村人の母への恐怖は…

仕事場で出会ったダニエルと恋に落ちるも、今のマリーは母の事、家の事、そして自分の体にできた謎の痣らしきものの恐怖で押し潰されそうな日々…

そんな中、少しずつ少しずつ、母の病気と自分との関連がわかっていく…母の病気が自分にも……
それが実にスローで、説明なく進んでいく。

押しつぶされた青春、両親への愛と、日々の介護の苦悩、病、うっぷん、小さなコミュニティの排他的観念の恐怖、過激になっていくいじめ、
変身していく己への恐れ、明らかになる事実、自我と自立、制圧からの脱却、
父の想い、母の過去…
言葉なくとも、むしろ言葉ない故にある行動にでた母の切実な思い、
初めての理解者、愛…

言葉なく“絵”で感じさせ理解させる北欧映画はたまらなく好きだ。
ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説『モールス』の映画化『ぼくのエリ』の雰囲気に似ている。

マリーを演じるソニア・ズーの幸の薄そうな表情と、自我に目覚めた時と変わってしまった時の表情の変わり目と、またその瞳にも、ハッとしてしまう。

監督はラース・フォン・トリアー感じの美術アシスタントをしていた方で、その美的感覚もまた素晴らしい。物語を語る映像美。


美しく澱んだ、しかし冷えてキリキリとした澄んだ空気感の中で描かれる、恐ろしくも哀しいノルディック・サスペンスホラー。
MikiMickle

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