rosechocolat

サウルの息子のrosechocolatのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.2
背景をぼかしているからこそ、その部分の残虐さがわかるというのもある。何の仕事を彼らがしているかの説明は一切ないが、収容所では何が行われていたかは広く知られているので、そこはいちいち言われなくてもわかってないと。

ただひたすら息子のためという信念だけがサウルを動かす。実際、彼の1つ1つの行動が咎められないで見過ごされるとは到底思えないので、ここはフィクションの世界。むしろ息子を前にしたサウルの無表情が、彼の置かれた状況の壮絶さを語ってはいないだろうか。あのシチュエーションでの全くの無表情である。

何としても、どうしても。叶うはずのない状況下で繰り広げられる必死の信念。あの収容所で、そう生きる者がいたっていいじゃないかという、作り手の悪あがきだったり、怒りが見える。最後の微笑みも、全くの異常な環境下においても、自分を取り巻く全てを忘れた人間らしさを感じさせている。

ナチス関連の映画は山ほどあって、いつもそれを見る時は、「こんなに酷いんですよ・辛いんですよ」的な作品なら全く評価できないし、もういらないと思いながら見た。何も語られないからこその良さがあったと思う。子どもいる人なら気が狂いそうになるんじゃない?いい作品ですが、観るのは辛い。
rosechocolat

rosechocolat