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サウルの息子のkojikojiのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
3.8
 ホロコーストの2日間を捕虜の視点で描く。
 先に観た「サンセット」のカメラワークと全く同じ独特の映像。主人公のすぐ後ろにカメラを配し、主人公に見えている範囲で画面を捉えていく。遠くは全てぼかした感じで映される。
 捕虜が集められ、射殺され、そこかしこに裸の死体が転がり、大きく積まれ、焼かれる。悪臭を伴う煙が立ちこめる。主人公の向こうには、そんな映像がぼかした感じでずっと映され続ける。
 映画の内容は当然のように暗く、重い。したがって、好き嫌いははっきり分かれるだろうが、映画としては傑作であることは間違いない。
 しかし、もう一度観たいかと聞かれたら、私は観たくないと答えるだろう。そんな映画だ。

#1371 2023年406本目
2015年 ハンガリー🇭🇺映画
⚫︎監督・脚本:ネメシュ・ラースロー
 本作「サウルの息子」が第68回カンヌ国際映画祭のグランプリを獲得、一躍注目される。2015年第アカデミー賞外国語映画賞受賞  「サンセット」はこの後の作品だ。

 舞台は1944年、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。
 ゾンダーコマンド※の一員として死体を処理していたユダヤ系ハンガリー人ウースランデル・サウル (ルーリグ・ゲーザ) は少年の死体を見つけ、それを自分の息子の遺体だと思い込む。
 少年はガス室に送られた後もまだ息をしていたため、解剖の対象に指定される。
 サウルは少年の体をユダヤ人の囚人医師に頼み込んで解剖が行われるのを阻止する。
 そしてサウルは自分の息子だと思いこんでいる死体にユダヤ教に則った埋葬を施すため、ラビ※を探すことにする。
 ラビにカディシュ※を唱えてもらうために。
一方で捕虜たちは反乱を起こす計画を着々と進めていた。
物語はサウルの息子の埋葬のための奔走と、この反乱が同時で進すめられる。

 主人公サウル演じるのはルーリグ・ゲーザ。この役者がすごい演技を見せる。鬼気迫る演技は、ひたすら自分の息子と思える死体をユダヤ教に儀式に則り埋葬したい一心だ。アウシュビッツというとんでもない環境の中で、父親として子を思う気持ちが切ない。

 音楽はメリシュ・ラースローとなっている。
エンディングで流れるバイオリン一本な物悲しい曲がこの映画にピッタリですごくいい。

 撮影は「サンセット」と同じエルデーイ・マーチャーシュだ。これからこの監督とのコンビが続くのだろうが、私は次の作品を同じカメラワークで撮ると観客には飽きられると思う。

📝メモ
この映画を観るにあたって、私のようなユダヤ教を知らない日本人としては、3つの言葉を確認しておく必要がある。
※①ラビ ·(rebbe)ユダヤ教に於いての宗教的指導者であり、聖職者でもあるような存在。 · 英語圏(主に米国)ではラバイと発音する。
※②ゾンダーコマンド
(ドイツ語: Sonderkommando)は、ドイツ語で「特別(Sonder)の部隊(Kommando)」を意味する言葉。 日本語では特殊部隊とも訳される。 ナチス・ドイツの時代、親衛隊(SS)および国防軍が有する様々な部隊の名称として広く使われた。この映画では、捕虜の中から選ばれた死体の処理、掃除などをやる捕虜のことで、一定期間続けると捕虜と同じ扱いをされることになっているようだ。
※③カディシュ(kaddish)《ユダヤ教》〔1日に3回行 われる礼拝の最後に唱えられる、神をたたえる重要な祈り。 幾つかの変種があり、通例"say kaddish"と言う場合は葬儀や喪服期間 に唱えられるmourners' kaddishを指すことが多い。この映画でサウルは息子の埋葬に際し、ラビにこの祈りをしてほしいのだ。
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