監督自身がタクシーの運転手となってイランの街を流しつつ体制批判をする作品です。いわゆるモキュメンタリーというのでしょうか。最初ドキュメンタリーだと思っていたので、途中から真偽を見極めるために神経を使ってしまいました。
この、繊細そうで人の良さそうなおじ様ジャーファル・パナヒ監督は、アッバス・キアロスタミ監督の助監督を務めた人だそうです。初めて知りましたがこの作品でベルリン国際映画祭の金熊賞を取るくらいなのでかなり有名な方なのでしょう。
警察から睨まれつつの撮影なのでこうなったのだと推測しますが、主に車内の会話で構成されてます。
なので、話自体はそんなに面白いものではありません。見ているときの感覚は映画鑑賞というよりはむしろ旅行です。
ああ今自分はイランの見知らぬ街にいて、偶然出会った現地のおじさんに勧められるまま、目的地も分からず、ひたすら漫然とドライブに付き合っているのだな、と思うと、なんとなく楽しい気がしてきます。
この退屈さと、観光地ではないイランの街並みと、体制批判の塩梅が妙にリアルでした。
ある意味、相当追い込まれてるんだなと感じました。それでも国内にとどまって作品を作り続ける根性がすごいと思います。もはや根性を通り越した「ど根性」です。
だからこれはモキュメンタリーと見せかけたドキュメンタリーなのかもしれません。「国から目をつけられ、かなり厳しいけれど、ギリギリ頑張ってるし、まだぜんぜん黙るつもりはないのだ」という、監督自身のリアルな不屈の精神を映している作品なのだと。とすれば監督だけ本人役で出演してるのも筋がとおります。
正直なところ、金熊賞分の面白さは分かりませんでしたが、戦う監督ジャーファル・パナヒ氏としばらくドライブができる作品としては味わい深い作品でした。
ニュースによると監督は2022年の7月に拘束され、禁錮6年の刑に服するため刑務所に移ったとあり、リアルさが増します。言葉もありません。