シズヲ

太平洋の地獄のシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

太平洋の地獄(1968年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

太平洋戦争下、同じ無人島に漂着した日米軍人のサバイバル。役者は三船敏郎&リー・マーヴィンの二名のみ、脇役どころかエキストラも一切無しという潔さ。余りにも男臭いコンビによる泥臭い演技合戦がとにかく映画を引っ張る。どちらも存在感が素晴らしく、三船敏郎とリー・マーヴィンという名優二人が“対等な相手同士”として画面上できっちり拮抗しているのが良い。説明的な台詞を殆ど用いない点にも生々しい質感がある。時にサスペンス的な緊迫感を与え、時に高揚を与えてくるラロ・シフリンの音楽もまた素晴らしい。無人島や海といったロケーションが時折見せる美しいロングショットも妙に印象に残る。

旧日本軍人VS米国軍人のサバイバルという題材からしてさぞヒリつきそう(実際ヒリつきまくる)だけど、実際は互いに必死とはいえ思いの外シュール。“どちらも敵意を向けているが物資が貧弱なせいで互いに決定打を与えられず、しかも今は生き残ることに精一杯”という状況のせいで壮絶な闘争に発展せず、殆ど嫌がらせじみた小競り合いが続く。水を奪い合ったり、魚を盗んだり、音や小便で挑発しまくったり……。言語さえも通じない二人を俯瞰的に眺める内容なだけに殊更に滑稽さが際立っている。しかも片方が捕虜になって争いが膠着状態に陥ってからは更に脱力感溢れる流れへと転がっていく。正直普通に笑ってしまう。いそいそと枯山水作ってる三船敏郎やこっそり獲った貝で揉める二人にフフってなる。

そもそも軍も国家も介在しない閉鎖的空間に流れ着いたのに、二人して意地を張り合っているせいで結果的に戦争の延長線上になっているという皮肉めいた構図が面白い。そんな両名も次第に争うことに疲れてきたのか、はたまたシンパシーが芽生えたのか、中盤からは共同戦線を張って筏作りに勤しむ。三船敏郎がマーヴィンのナイフを借りている場面などのさりげない描写から伝わってくる距離感の変化にグッと来る。相変わらず言葉は通じないので意思疏通の苦労ぶり(身振り手振りを駆使する髭面二人が妙に楽しい)には笑えてしまうものの、互いに力を合わせて荒波を越えていく中で奇妙な絆が生まれていくのが良い。「彼は友人だ!」二人で嬉しそうに酒を飲む下りの感慨深さよ。そして最後の最後に思い知らされるのは“帰属意識”が生む溝の深さ。

ラストはめちゃくちゃ唐突で、二人がいかに大局的状況から放り出されていたかをまざまざと突きつけられるような展開にビビる(説明は皆無だけどあの島は既に射撃訓練の的になっていたらしい)。これはこれで戦争の無情さは伝わってくるが、結局何が起こったのかを描写しないまま素っ気なく放り投げた感があるので思うところはある。サバイバルを通じて絆が芽生えた二人が神や同胞という根幹の価値観に自ら踏み込んだことで相互理解の道が絶たれ、互いに正装を整える=国家に帰属する形で関係性が断絶する“もう一つのエンディング”の方が好みと言えば好み。それでも正規エンドは途中までの小競り合いや友情も相俟って不条理ぶりが凄い。
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