ブタブタ

この世界の片隅にのブタブタのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
うちの奥さんは途中からボロボロ泣き出していて後で聞いたら、最後は原爆で全員死ぬと思っていたそうです。
何故広島でなく呉に原爆が落ちるの?についてはパラレルワールド的な事だそうです。((°ω°)...)

出来の悪い朝ドラのパターンでよく有りがちなのが戦時中の人物である筈の主人公(ヒロイン)が完全に現代の価値観、戦争反対の思想の持ち主で日本の敗戦を予知しているのかの如く諦めたように日本の行く末を達観している事。
まるで何もかも知ってる様な神の視点の如く。

『スターウォーズ』で銀河を救ったのはルーク・スカイウォーカーだと、あの銀河の住人、殆どの人々は知らない-との評を聞いてハッとしたのを思い出しました。
(以上の事を踏まえつつ)

呉に住んでいたあるひとりの女性「北条すず」のお話しも本当なら誰も知らない記録になど残っていない筈で、描かれるのは歴史上の人物ではなく飽く迄市井のごくごく普通の女性の日常であり、やがて来る原爆投下と言うカタストロフィと大日本帝国の敗戦と消滅は歴史的には大事件であったとしても、日々を生きる事に必死な一人一人にとっては遠い世界の出来事でリアリティなどなかったでしょうし玉音放送の後の「あー終わった終わった」と言う感じの反応も戦争が有ろうが無かろうが、今日一日を生きねばならない、その大変さは何も変わらないのだと当然思います。

全てはが「すず(のん)」の目を通して描かれるので、現実とは思えない出来事もしばし見受けられるのですが、あの座敷童子の正体はリンでしたが人攫いの「ばけもん」については謎のままです。
すずの目を通した世界であり最後にワニの嫁を連れたばけもんが現れるのも、之は現実であると同時にすずの回想やすずの書いた物語であるとも言えます。

『ハウルの動く城』✖️『風立ちぬ』

「ジブリのその先へ」と言う評を見ましたが、確かに。
宮崎駿監督は無類のミリタリーマニアで『泥まみれの虎』『雑想ノート』等のミリタリー戦記マンガ作品がありますが一転してアニメ作品になると現実のリアルな戦争モノにおけるミリタリー描写は殆ど描かれる事はなく、『風立ちぬ』でも戦闘シーンは殆どなく『ハウルの動く城』は細田守監督の予定が降板したとの事ですが、当初はあった魔法戦争のくだりが当時はイラク戦争の真っ只中でファンタジーの世界迄戦争をする事はないと宮崎監督によって殆どカットされたとか。

ジブリアニメでは見る事が叶わなかった「現実の戦争」の精緻なミリタリー描写、蟻の様な人間が表面で蠢く「大和」や着底した有名な写真そのままの、更に其処にズームアップしていった様な「青葉」そしてリアルな空襲・爆撃シーンはこれ以上ないくらいの迫力と臨場感でした。
リアルであると同時にソレらは全部すずの目を通した風景で、零戦vsグラマンの空戦や対空砲撃の場面では色とりどりの爆発が空にあがり「今絵の具があったら」とのすずのセリフ、ファンタジックで非現実的な演出も素晴らしかったです。

日常が徐々に戦争と言う非日常に侵食されて行く様子が淡々と描かれるのは恐怖でした。
しかしそれでも変わることがない毎日の生活があり、そこに生きる人々がいると静かにそして力強く語ってる映画でした。

「失われた右手」と「エンペラー」

『SWジェダイの復讐』でジェダイ騎士となったルークVS皇帝のスーパーフォースバトルが見れるモノと期待していたので全くもって拍子抜けだったのですが、ルークがベイダーの切り落した腕が自分と同じ義手だと気付き皇帝の前でライトセイバーをポイッと棄てた瞬間、ルークは皇帝に勝利したのだと大分後になってから思いました。
ルークは戦いを拒否し皇帝を否定した。
同じく右手のないすずも天皇の敗北宣言を聞き天皇の言葉を全否定する。
天皇だけでなく最後まで戦えと言っておきながらさっさと白旗を上げた国家に対して、家族を失いすずのアイデンティティとも言える絵を描く為の「右手」まで失ったのに、勝手な事を言うなと。

ジェダイ騎士のアイデンティティとも言えるライトセイバーを持つ「右手」を失ったルークと、絵を描く為の筆を持つ「右手」を失ったすず。

「ここに5人残っている。まだ左手も両足もある」と言うすずのセリフ。
両手足を失いサイボーグになって戦い続けさせられているダース・ベイダーの事が浮かんだのですが、すずにとっては既に戦争が日常でありすずの思いはひたすら「日常」を守る事だとも感じたので、「終戦」と言う「日常の終わり」は許せなかったのか。

そして本当ならすずは広島に帰り死ぬ筈だったのでは。
それを止めたものは何だったのか。
すずが呉に嫁ぐ事になった原因である
橋の上ですずと周作(細谷佳正)とを引き合わせた「ばけもん」は南方で死んだ兄=「鬼いちゃん」であり、ソレは鬼いちゃんの霊体の様なモノだったのか。
だとするとそれを顕現させたのは他ならぬすずの持つフォースだったのか。
(何だか自分でも書いてて意味分からなくなって来ましたが)

とは言え戦争は終わり日常がまた戻ってくる。
『ジェダイの帰還』とはルークがジェダイになり帰還したのではなくジェダイとなったルークが戦いを終わらせ自らもそして全銀河の人々も日常へと帰還させた。
と言う意味だったのかとも思いました。

そしてなんといっても「のん」さんが凄すぎた。
演技とか声優スキルの上手い下手とかを完全に超越して「すず」そのものになっていたと思います。
ブタブタ

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