賽の河原

この世界の片隅にの賽の河原のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
3.4
良作。考証等のリアリティも凄いらしいですね。あとは演出もすごく重層的だと思います。原作は未読。
ただ、端的な感想としては「すげえ涙腺への攻撃力高いんだけど、俺バカだから一回じゃよく分かんねえや」って感じです。
その意味で「みんな絶賛してるけど、そんな簡単に絶賛できるほど一撃で理解出来る映画じゃなくね?」って感じ。
聞きなれない方言に加え戦時中の文脈でないと理解出来ない言葉や因習、考証がしっかりしていて、演出も重層的だからこそものすごくハイコンテクストなエピソードが多いため、理解仕切れない部分が積み重なるストレスはあるわけです。その意味で絶賛礼賛一辺倒の流れにはちょっとだけ違和感ありますね。みんな映像リテラシー高くね?っていう。
あとこの映画で評価されるのはいわゆる定型的な「戦争映画」「反戦映画」「NHK朝ドラ的な反戦」みたいなものとは切り離された分厚い日常描写から戦争を浮かび上がらせる演出ですよね。その上で「この世界の片隅に」日常をなんとか生きていこうっていう。これは本当に私も斬新だし、素晴らしいと思います。でも本当に意地悪な言い方をするとすずさんって嫁ぐ先の苗字も覚えていない「素朴な」ヌポーっとした人間の一人称なんですよね。その視点から「この世界の片隅に」生きていくと言われるのは「ズルくね?」って思いもあるんですよ。
っていうのも、義理のお姉さんみたいに人生のほぼ全てを失ってしまった人間からしたら「この世界の片隅に」もう生きていけねえよなっていうことも容易に想像できるからです。そもそもすずさんが男だったらもう軍隊でしばき倒されて自殺ですよ。フルメタルジャケットの微笑みデブですよ。
特にピンとこなかったのは玉音放送聞いてすずさんが1人慟哭するシーン。あれはちょっとよく分からない。俺のリテラシー不足なのは認めますが、演出としてねじれてしまってる気がしてやっぱりストレスというか、ノイズ。
とはいえやっぱりこの徹底的な考証、音楽、あと空襲の禍々しさも斬新で印象的だったし、小道具や服や自然の描写にも意味があったり。いい映画も多かった2016年のトリとも言える良作をクラウドファンディングという手法で製作をした監督をはじめとする製作陣には敬意を抱かざるをえない作品です。
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