ただのすず

この世界の片隅にのただのすずのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
3.6
戦争体験を見たり聞いたりするたびに、自分が経験したことではないのに悲しくてとてもやりきれない気持ちに襲われるのはどうしてだろうと、いつも思っていた。それを代弁してくれたように感じる。
成長を見守りたいと思っていた子や、共に生きると決めた夫婦や恋人や友人、絵を描き、歌い、踊る、表現する手段や自由。そしてその人たちが生きる家、居場所、それを根こそぎ奪い、焼き払い、それでも命さえあれば、生きていさえいれば、良かったね、といえるのだろうか。
人の生きる目的や希望、光を奪うことは命を奪うことよりも卑劣だと思った。居場所を焼かれまいと戦ったシーンと戦闘機が飛び交う空を見て絵を描きたいといったすずのシーンが好き。すずが奥に熱いものを秘めている表現者であったのが本当に良かった。

戦争映画が辛く悲しいものであるという想像力のない考えはもう止めようと思った。それだけではない、虐げられても必死に立ち上がり大切な人たちと毎日を笑って生きようとした人たちの記録だ。
片隅に生きてくれた人たちがいたから今の私がいる。