主人公が死にゆく話であるのに湿っぽさを感じない。観終わって、熱い湯に浸かった後のように体の芯からぽかぽかと温まる。
脚本には不満がある。お父ちゃんは人が良すぎるし、どんなに思い詰めていようと、教室であんなことをする高校生の女の子はいないだろう。ヒッチハイカーの描写は浅過ぎる。
しかし、そんなことを許してしまうほどに、お母ちゃんの熱い愛情に圧倒されてしまう。
学校でいじめられている我が子を、逃げたら駄目だと学校に送り出すことは、どんなに辛いだろう。逃げなければ駄目な時もあるはずだ。お母ちゃんと私は違う、と娘が思うのも当然だ。しかし、いつも凛々しく明るい母の姿を見て育った娘だからこそ、逃げずに闘った。
お母ちゃんの熱い愛情は、お母ちゃん自身が愛情に餓えているからこそ沸きあがる。お母ちゃんの熱い愛を受けた人たちは、精一杯の愛情を誰かに返したくなる。
「お母ちゃんのこと絶対一人にしないから安心してね」娘が死にゆくお母ちゃんにかける言葉。なんて安堵させてくれる言葉だろう。この子は、きっと出会う誰をも一人にせず、深く愛することができるだろう。
銭湯の煙突から上る煙りまでもが熱い愛情を伝えてくれる。
宮沢りえさんやオダギリジョーさんはもちろんだが、杉咲花さんが素晴らしかった。
帰り道、駅で、電車の中で、歩きながらも、思い出して、はらはら泣いてしまった。