プペ

残穢 住んではいけない部屋のプペのレビュー・感想・評価

3.0
編集者や心霊サークルの大学生を含め、心霊現象を扱っていながら本心では誰も信じておらず、興味本位で調べていくと″本物″に出会ってしまう。
恋を信じない主人公が、偶然出会った相手となんだかんだあるうちに″本物″の恋に落ちていた、というのと同じパターンであり、落ちてしまったらもう抜け出せない。
そう、つまるところ本作は王道を突き進んだ映画なのだ。
″本物″に出会うために主人公たちは″過去″へと時代をさかのぼるが、それは建物の″奥″へと踏み込んでいくことでもある。

霊たちは、過去の九州の炭鉱から怨念を背負って現代のマンションのリビングへと忍び寄る。
それほど遠い過去でもなく、それほど深い奥でもないところが、現代日本の底の浅さなのかもしれない。


『リング』のように呪いを解く為に主人公が奔走するでもなく、『呪怨』のように呪いの元凶自ら登場で怖がらせるワケでもない、″気づいた時にはもう遅い″静かなオカルトホラー『残穢』。
発端となった強大な禍が新たなる禍を生み、連鎖増幅していく「穢れ」。
それは、平岡が言うように″ヤバい″案件だった。
そう、彼はちゃんと指摘していた。
「取扱いを誤ると酷い目に合う」「これとんでもないものを引き当てたのかもしれません」「話しても祟られる、聞いても祟られる」と。
でも、結局は本気にしていなかったのだろう。

知識があっても実践しなければ意味はない。
「久保さんの前の住人(梶川)が転居先で自殺した」と、ちゃんとヒントは出されていたのに。
これは″放射能的厄災″と捉えると納得がいく。
穢れへの短期的な接触なら多分セーフ、調査に加わった久保さんのミステリー研究会の後輩にまで災いは及んでいないのが根拠だ。
穢れに長期間、そして深く触れ続ける事が問題なのだろう。
総被爆量で基準を超えると発病する理屈になる。
「顔が歪む婦人図」を保管していた吉兼家菩提寺の住職のように、″深入りしない姿勢″が防護服代わりと捉える。

主人公″わたし″を筆頭に、本件に長く、深く、関わってしまった人たちの末路や如何に。
そして、本作を鑑賞した″あなた″とて例外ではないのだ…。


最後にひとつ、本作を貶す感想を綴らせて欲しい。
私のように「恐怖性」という部分でのチープさがいただけないと思った人は多いのではないだろうか。
CGらしさ全開の黒い人影は、もはや特筆する必要もないほどのマイナスポイントだし、わざわざ黒い人影を実体にする必要はなかったと思う。
確かに昨今の邦画ホラーの中では頑張りを伺えるが、傑作とは言いがたく、細かい部分で手が抜かれている感じは否めない。
まあそれはこの映画に限ったことではなく、日本の娯楽映画の慢性的な問題点ではあるのだけれど。

それでも、過度なBGMで煽らず、あくまで″わたし″と同じ第3者の立場で、事象を検証する感覚を創出したのは秀逸だった。
淡々と明らかになっていく真実。
気づけば誰もが当事者に。

映像はどうであれ、『残穢』は設定が巨悪だからこそ厄介な作品なのだ。



年を重ねるごとに逆の意味で便利になるのは、すぐ忘れてしまうという脳機能の劣化。
はやく次の映画を手に取り、脳をフォーマットしたいと思っている。
プペ

プペ