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ハッピーアワーのnkkobaのレビュー・感想・評価

ハッピーアワー(2015年製作の映画)
5.0
キネカ大森の濱口監督特集上映でやっと初鑑賞。


あっという間の5時間17分で、上映後は呆然としてしまった。それくらいの衝撃作で、この映画を見た前後では世界を見る目が変わってしまうという、微かだが確かな実感がある。

演技ワークショップに参加した4人の一般人が主演となって30代後半の女性4人の人生を描いている本作。
綿密に練られた脚本とそれを的確に表現する映像表現、そして何よりもほとんどが演技未経験というキャスト達による演技は「自分ではないほかの誰か」を演じるということの含意をあられもなく浮かび上がらせ、瑞々しい形として劇中感の人間関係と感情の発露が現れる。


劇中キーポイントとして入ってくる身体ワークショップや朗読会は、画面の中で登場人物同士が受け取っているものなのに、あたかも我々観客もそれを受けているような不思議な感覚を得、そこへ没入していく。その結果、5時間を超える上映時間など全く気にならず、登場人物それぞれの人物像がより深く捉えられ、彼女らの人生を追体験しているかのような時間だった。

4人の女性がそれぞれ抱える悩みや問題は、この世界の日常の中にありふれた普通のものかもしれない。しかしこの映画の真に凄いところは、それらの物語も上質に取扱いつつ、私達がいつも他人をどう見て/見られているのか、感じているのかという関係性を映画という装置を利用して掬い上げ、提示したことにある。


これほどにクレバーな映画は見たことがない、まごうことのなき傑作。
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