ヒデ

疑惑のチャンピオンのヒデのレビュー・感想・評価

疑惑のチャンピオン(2015年製作の映画)
3.7
「よく聞け。俺はガンを克服した。敗者になるなんて二度と御免だ」

ガンを克服し、ツール・ド・フランスで史上初の7連覇を成し遂げたヒーローが、実はドーピングの常用者で真っ黒だったという実話。

話は疑惑の当事者ランスの視点で進んでいき、ガンを克服してからの栄光と転落が描かれる。ドーピングのもたらす効果や検査の切り抜け方なども説明されていて、そこが具体的で非常に面白い。「これを打てば最大酸素摂取量が毎分5ml上がる」みたいな。血液検査をくぐり抜けるため、急いで点滴を打って血中濃度を薄めるシーンは特に印象的だった。ツール・ド・フランスが一時期薬物使用者に溢れすぎていて、芋づる式になることを恐れて逆に誰も告発できない状態だったというのも驚き。

ランスは元々筋肉質で山登り向きの体ではないと言われていたのに、ガンになったことで体が萎み、ドーピングがめちゃくちゃ効く体になってしまうという皮肉が悲しい。

残念ながらランス本人や周りを固める弁護士・コーチ・医師が全然いい奴ではないのでそこが観ていて辛いけど、実話なので変な脚色がなくて良かったとも言える。

ドーピングはあくまで"勝ちたい"という飽くなき欲望の果てに生まれるものであり、誰もが陥る可能性のある誤答なのだと知った。


以下、セリフメモ。


「スイスでは"エポ"は誰でも買える」

「先生。俺もあんな体になりたい。俺にも"プログラム"を」

「比率が悪い。パワーと重量のバランスが悪いんだ。君の体は山には向いてない」

「エポ…エポジェンはある?それをこの男に」

「ガンだよ。ランス。精巣ガンだ。ステージ3のうちの3」

「かなり過酷な治療だよ。どっちが勝つかわからない。ガンか、君か」

「運動能力向上薬を使ったことは?」

「見てくれ。体型が変わった。抗がん剤ダイエットで」

「最大酸素摂取量は?」
「84」
「意味は?」
「酸素消費の最大量」
「他の意味もある。"生まれながらの敗者"だ。グレッグ・レモンが優勝した時、最大酸素消費量は93だ」

「だが科学の力に限界が来たよ。大きな飛躍が見られない」

「啓示があったんだ。神からの啓示だよ。聖パウロに話すように神が語りかけてきた。<キリストの涙>」

「腎臓からのエリスロポエチンは、赤血球を増加させ筋肉への酸素供給量を高める」

「ちゃんと(エポを)管理すれば最大酸素摂取量を毎分5ml/kg上げられる」

「先生、倫理に反します」

「慈善活動は良い。君は死から蘇った男だ。ハードルを上げよう」

「今回のツールは薬物から抜け出したのか?」

「今までの山岳ステージでのベスト順位は39位だぞ。そんな男がいきなり最高のクライマーになった」

「ドーピングしてるから下り坂のように速く走れる」

≪ツールの沈黙とは、運営者・マスコミ・選手が口を閉ざすこと。深い沈黙だ。だが沈黙は大きな歓声に紛れ、誰も不都合な質問をしない。これは実力かドーピングか?≫

「エポは検出されない。だからUCIはヘマトクリット検査をして、血液中の血球を使用する。50%以上ならエポ使用(=陽性)だ。だが49.99999%でもOKだ」

「袋を絞れ。血液を薄めないと…」

「ランスはスーパースターに昇格。世界一過酷なレースで2連覇を達成です!」

「ベン・ジョンソンだ。1988年ソウル五輪。スタノゾロールで陽性」

「マイクロドーズだ。体重1キロにつき10単位だ。12時間で体から排出される」

「エポ検査に備え正常な血液を冷蔵して、必要な時に体に戻す。大事なのは赤血球で、酸素が多いほど速く走れる」

「陽性は初めてだ。この件をどう対処すべきか…。自転車業界にとって最善策を取れ。あとは任せる」

≪アーム・ストロング。アメリカ人初の5連覇達成≫

「俺は運動能力向上薬で一度も陽性は出ていない。運動能力向上薬で俺は一度も陽性は出ていない…」

「自転車を売った金で薬物代を払うチームかよ。こんな契約を結んだ覚えはない」

「ドーピングすることがUSポスタル(チーム名)の文化だった。私も巻き込まれたけど仕方がなかったのよ」

「情報そのものが腐ってたら?この競技への信頼を奴がぶち壊した!」

「ランスは来シーズン引退するんです。逃げるが勝ちですよ」

「7連覇の男が後輩に負けるのか?唯一の7連覇だぞ。長年バレずにきた」

「3位か。ハハハハ」

「永久?永久追放だと?」

「スポーツ史上、医学的に最も高度なドーピングだと?」

「罪を贖うとしたら自分で決める」

≪ランスが薬物使用をついに認める時が来た≫

≪2012年、アームストロングは7連覇の記録を剥奪された≫
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