KOUSAKA

私、君、彼、彼女のKOUSAKAのレビュー・感想・評価

私、君、彼、彼女(1974年製作の映画)
4.6
シネマメンバーズにて、シャンタル・アケルマン監督の5作品を順番に鑑賞。

タイトルの通り「私」から「彼女」に至って最後まで観終わった時、この主人公はもう一度「私」の孤独に戻って、同じサイクルを延々と繰り返すような気がしたので、また最初からもう1度見てしまいました。

ざっくり言うと「完全な孤独」~「行きずりの関係」~「真の愛への帰属(からの挫折)」という3部構成になるわけですが、どのパートもシャンタル・アケルマンの作家性が炸裂しています。

1部では「少なくとも28日間はここにいる」というシーンで、丸裸のままノソノソと四つん這いで移動してグデーっと横になって砂糖をスプーンで食べ始めるところとか、何もやる気が起こらない時の究極に鈍重な感じが凄く出ていて、超地味やけどなかなかの名シーンだと思いました。

食べて寝るだけで丸裸。もうほとんど動物。そう考えれば、檻の中にいる動物の生態を定点カメラでずっと見せられ続けているような気もしてきました。

外では雪が降っているシーン(本人曰く「膠着状態」だそう)で、子供達が楽しそうに遊ぶ声が聞こえ始めた時、母性を感じさせる優しい微笑みを浮かべていたのも印象的でした。

あと、ずっと主人公のジュリー1人のシーンが続いてたから、初めて第三者の影が登場した時は、突然ヌルッと表出した「社会性」にドキッとさせられました。

そして個人的に一番すごいと思ったのは第3部でした。

最初に、ジュリーがビニール生地のコートを脱いだり着たり、部屋を出て行く素振りを見せたかと思えば「お腹すいた」と言ってみたりしている何気ないシーンがありますが、この時点で、相手の女性のことをジュリーが本当に好きなんだということに2回目の鑑賞でようやく気付きました。

元恋人の女性がサンドイッチを持ってきてくれるのを待っている時に、コートのチャックだけ下ろすところとか、細かい演出でジュリーのいじらしさを表現しているし、でも彼女が戻ってきてサンドイッチを食べ出したら、あっさりコートも脱いで「長居する」アピール、そしてサンドイッチも「もっと」と要求、さらに「喉が渇いた」と、もう甘え放題😆

そしてこの後が、今作最大のハイライトシーンが訪れるわけですが、まるで格闘技のように相手の女性とくんずほぐれつを続け、何とか愛する人と繋がって一心同体になろうと試みるジュリーの姿が捉え続けられます。これがあまりに切ない。そして精神的にも肉体的(物理的)にも「繋がることは絶対に出来ない」という、絶望的な事実を突きつけられます。

1回目見た時は、ここのシーンの意味がよく分からなかったんですが、2回目見た時は涙が出てきました。

他者と真の意味で分かり合えることなどあり得ないんだという絶対的な事実を突きつけてくる作品は、これまで他にもたくさんあったと思いますが、他では全く見たことのない唯一無二の筆致でそれを描く本作は、あまりに衝撃的でした。これが劇映画の長編第1作とは・・・。シャンタル・アケルマン監督、やっぱり凄いです。
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