明石です

タクシーハンターの明石ですのレビュー・感想・評価

タクシーハンター(1993年製作の映画)
3.8
タクシー運転手に身重の妻を轢き殺され、喪失感から仕事も失った男が、復讐の鬼となり、香港の街に蔓延る悪質なタクシー運転手を掃除する話。『八仙飯店之人肉饅頭』『エボラシンドローム』のハーマン・ヤオ&アンソニー・ウォンの黄金タッグによる初期の作品。

善良な男が大切な人を殺され復讐鬼と化すという物語自体はオーソドックスなリベンジアクション(あるいは昔風の表現だとヴィジランテ映画)ですが、主演がアンソニー・ウォンということで滅茶苦茶に暴れ回るんだろうなと期待を大にして観た。結果、バイオレンス描写は(期待値が上がりすぎてたせいもあり)控えめで、ウォンの性格自体が前作のあのイメージを覆すかのような圧倒的善人で驚いた笑。べっこう縁眼鏡にスーツ姿だと、本当に保険販売員にしか見えないのが凄いなあ笑。本人は「人肉饅頭」を嫌ってたみたいですが、その思いが本作の役に現れてるのかもですね。

鏡の前で「地獄に堕ちろ」と連呼しながら銃を構えるシーンは完全に『タクシードライバー』で、それから平凡な男がひょんなきっかけから世直しを夢想し、銃を手に入れて実行するようになるという話の展開もあの映画そのもので、ヤオ監督がスコセッシ大好きなんだろうなという愛が伝わってくる。となると作中で何度も流れるテーマ曲はやはりバーナード・ハーマンを意識してるのでしょうか。膨大なネオンに照らされた街の風景が人々の心に喚起する憂鬱を映し出すのにうってつけの、メランコリックな曲調が耳に心地良い。

終盤のカーチェイスから車ごと店に突っ込み、タクシー運転手たちにリンチされ病院に運ばれる展開をスピーディに見せ、その前のめりな勢いのままぴしゃりと締めてエンドロールに繋げるラスト、潔いというかスタイリッシュというか、個性が感じられて好きだなあ。
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