小波norisuke

永い言い訳の小波norisukeのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
4.0
人と深く関わることを避けてきた男が、 突然の妻の死を通して、ある家族と出会い、「人生は他者だ」と思うまでに変えられていく過程を丁寧に描く。        
人と深く関われば、いつしか互いを傷つけてしまうこともある。そんな経験を重ねると、人と関わることが煩わしく、恐くなる。そのくせ、長年連れ添った夫婦や親子の関係では、自分のそばにいてくれることがあまりにも当たり前に思えて、我が儘な感情までもぶつけてしまう。人の心に潜む無自覚な恐れや甘えを、ごくさりげなく、自然に映し出す。見事である。

愛していると意識することもないほどに、そばにいることが当たり前だと思っていた人が、突然いなくなる。すぐに喪失の悲しみに襲われる人もいれば、全く実感できず、感情が麻痺する人もいる。本木雅弘さんが演じる主人公幸夫は後者だ。そして、幸夫が出会う、幸夫の妻と同じ事故で母親を喪った小学6年生の真平もまた、泣けなかった。不器用な者同士が共感しあい、新たなつながりが生まれていく。

「人生は他者だ」と妻が死んでから気づく。もう取り返しがつかない。ただ噛み締めて生きていくしかない。気づかせてくれた人たちに感謝して。「長い」ではなく、「永い言い訳」というタイトルが、心に沁みる。

原作者でもある西川美和監督の鋭い人間観察力と描写する技量に感嘆する。心の奥底に隠している感情を暴かれるようで、心にぐさぐさと突き刺さる。それでも、最後には、どうしようもない自分でも日々の生活を愛おしむことができるように思えて、温かい気持ちになった。
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