岩嵜修平

ディストラクション・ベイビーズの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

3.6
#真利子哲也 #柳楽優弥 #菅田将暉 #小松菜奈 #喜安浩平 #向井秀徳
性欲の発散に近い無秩序で衝動的な暴力の連続。彼が僕の人生と交差しないことだけを望む。
真利子哲也監督が実在の人物をモデルにしてると仰ってて、字面でこの台本を読んだだけなら有り得ないと思えたかもしれないが、柳楽優弥の圧倒的な実在感よ。テレビドラマ含め、印象的な役は数あるが、間違いなく彼のベストアクトの1つであろう。喜怒哀楽を超えた、というよりどれでもない感情を見事に体現している。
ひたすら自分と同程度かそれ以上の力を持つ人間にのみ挑みかかる柳楽優弥と、自分以下の力であることが目に見えて分かる人間しか相手に出来ない菅田将暉。暴力に大義なんてあってたまるかと思うが、少なくとも目的すらない暴力の何とみっともないことか。
でも、この菅田将暉の怪演が素晴らしい。平々凡々とした気の弱い犬が、圧倒的な力を持つ虎を手にすることで狐と貸す。その振れ幅の大きさと説得力。
同じく菅田将暉&小松菜奈コンビの『溺れるナイフ』の前に観てなくてよかった。こっち先に観てたら、『溺れるナイフ』の2人の展開にシンプルに感動出来なかっただろう。
小松菜奈は、やはり普通の役をやらせるには勿体無い。軽やかに犯罪を犯してしまいかねない面構え。あの年齢にして、いや、あの年齢だからこその危うさがスクリーンでは光る。『渇き。』は作品としては苦手だが、素晴らしい演技だったし、どんどん陰を見せて欲しい。
村上虹郎は華があるし、使いたくなる気持ちも分かるんだけど、どうしても、あのエコーが効いたようなナルシスティックな発声が苦手。お父さんのような落ち着きのある演技が出来るようになれば。
池松壮亮の贅沢な使い方も含めて、登場人物がすべてリアル。一目で、ああ、こいつはイかれるわと分かるキャスティング。
『桐島、部活辞めるってよ』と言い、『幕が上がる』と言い、劇作家 喜安浩平さんによる脚本手直し(主に若者言葉だと思うが…)の職人っぷりは見事。ラブコメ以外の全ての若者を描いた映画は、彼に脚本を手直ししてもらった方が良いんじゃないか。
向井秀徳の音楽も最高。引きの画などで、画面上には映らない内面の衝動を不規則な轟音で見事に表現されていた。前作に惚れ込み、いくつかの曲は脚本を読んだだけで映像を見ずに出来ていて実際に使われたという話も、曲について考えていてフラッと立ち寄った下北沢のライブハウスで聞いたジャズバンドの音楽にヒントを得て、そのバンドのベースとドラムをそのまま起用したという話も、向井秀徳だからこそ信じられる伝説感。
同じくサイコパスであるヒメアノールの森田剛やクリーピーの香川照之に比べると、まだ、話が通じそうかな。でも、絶対に目を合わせたくはない。(彼は目が合わなくても殴りかかってくるが)
岩嵜修平

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