タコさんウィンナー

素晴らしきかな、人生のタコさんウィンナーのレビュー・感想・評価

素晴らしきかな、人生(2016年製作の映画)
4.0
娘を失ったショックで「愛」「時間」「死」と3つの概念に手紙を出した男。ある日彼の前に3つの概念を擬人化した人物が現れて……。
前作「プラダを着た悪魔」のバチバチのぶつかり合いによるヒューマンドラマとはまた違った、悲しみと優しさと強さがしっとり流れるヒューマンドラマです。

複雑に絡み合いながらも、テーマによってシンプルにまとまっていておもしろかったです。(わかりにくかったところもなくはないですが、おそらく私の集中力不足かと…汗)

今作で私がもっとも注目したのは、テーマを扱うセリフのパワーです。
冒頭、娘を失う前。バリバリの広告マンだった主人公が人生に大切な3つのこととして、「愛」「時間」「死」について演説しています。そしてそのままウィルスミスの顔を一周して、娘を失った後のシーンへ。
この映画の始まり方は、テンポよくテーマを伝えつつ話をスタートできる一方で、演説におもしろさや納得させる部分がないと「ベラベラセリフで説明するばっかでつまんなそーな映画だな」と思われかねないと思います。
しかし、この映画はちゃんと最初の演説で観客を(少なくとも私を)引き込んでくれました。これは考え方とセリフのセンスがとても優れているということでしょう。
この映画ではその後も、定期的にテーマが提示され、それぞれのキャラクターがそれぞれの考え方・捉え方をセリフ(たまに行動)としてぶつけ合うことで物語が動いていきます。まさに、テーマの討論会ドラマとでも言えましょうか。
それはやはりリスキーなことでもあると思います。それでも感動できたのは、扱われるテーマが超普遍的であり、その上でキャラクターたちのテーマへの向き合い方・考え方がそれぞれにとって真摯であったからだと思います。

まさに、概念に手紙を書く男、というおもしろくもテーマ性の強い設定にぴったりな映画でした。

ちなみに、よく名作に数えられる映画「すばらしき哉、人生」とは似た雰囲気の部分が無くはないものの、まったく別のお話です。そもそも原題は「すばらしきな、人生」じゃありません。(原題のほうが映画の内容を適切に表しているので要チェック!)
設定的には少し「クリスマス・キャロル」に近いところもあると思います。

そのあたりのことを含め、劇場パンフレットがとても内容が充実していて良かったので買ってみてはいかがでしょうか。出演陣のインタビューと監督のインタビュー、評論に加え、3つの概念についてそれぞれ漫画家や僧侶といった方々がコラムを書いていて、とてもおもしろかったです。

「別に爆発とかしないしDVD待とうかな」と思われやすい映画かとも思いますが、劇場で見るのわりとオススメです。この手の映画は劇場で見ると「周りでどんな人が泣いているのか」とか、「どのタイミングで泣くのか」とか、そういうところを体感できますよ。年代でちょっと違ったり、自分と違うところでみんなが泣き出したり、そういうのも映画体験として面白いと思います