ヤンデル

バービーのヤンデルのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
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・バービーと一緒に現実世界に行ったケンは、現実世界が男世界になっていることを知り、バービーランドを男社会にしようとする。バービーランドでは、バービーは大統領になったり、ノーベル賞を取ったりしているが、「ケン」はただの「ケン」でサーファーでしかない。ケンは現実世界で仕事を探そうとするが見つからない。これは現実世界の女性の立場のメタファーになっている。

・バービーは「死」を意識するようになり、足に異変を感じる謎を解くために現実世界に行くことになる。現実世界で家族の笑いあう姿や、木々の木漏れ日、死を意識するからこそ生を感じるということを知り、最後に現実世界で自分自身を見つめ直す決断をする。ジェンダー論を越えて、最後は自分自身の生き方を考えるラストになっている。

・バービー人形はモデルの痩せすぎが問題になった2000年代ごろに売れなくなり、批判に対応するため、劇中に出たようなぽっちゃりした体型のバービーなどが発売された。

・バービーの変わりに「ブラッツ」と呼ばれる黒人やアジア人などマイノリティをモデルにした人形が売れるようになった。バービーが少女たちに拒否されるシーンで、彼らがマイノリティ人種なのは「ブラッツ」を意識しているため。

・バービーが少女たちに「ファシスト!」と言われるシーンがあるが、これは金髪美女が男性の性の対象を目指しているように受け取られたり、トランプの周辺の女性が金髪美女だったりすることから。

・バービー人形の産みの親、ルース・ハンドラーは実際に娘の名前「バーバラ」からバービーの名をつけた。「ケン」は息子の名前ケネスから。つまりバービーとケンは恋人同士ではなく兄妹になる(?)。劇中で言うように、脱税の訴追によって経営から退陣した過去を持つ。

・ルースはこれまでの赤ちゃんなど「子供が世話をする人形」の概念を壊し、「憧れる大人」の人形としてバービーを作った。それを表現した冒頭は「2001年宇宙の旅」のパロディ。また、このシークエンスは、女性が子供を育てるという社会的な役割しかない時代から、自由に生きるロールモデルとしてバービーが登場したことも表している。

・バービーにサンダル(現実の世界)とハイヒール(バービーの世界)の選択を迫るシーンは「マトリックス」のパロディ。

・大学のベンチでバービーに話しかける老婆は衣装デザインで何度もアカデミー賞を受賞したジャクリーヌ・デュラン。

・現実世界に来たバービーがビーチの人達に「私、ツルペタだから」と訳されたセリフは英語では「私、性器(ヴァギナ)がないから」というギャグでアメリカでは笑いが起こったが日本では伝わりにくくなった。また、これはラストで人間になったバービーが婦人科に行く伏線にもなっている。

・しかしバービーが婦人科に行くということは、子供が産める体になったことを確認するとであり、最初にバービーが否定した「女性が子供を産み育てる」という役割を再度肯定してしまうことになる。これは、オチでありながらあえて議論を呼ぶようなラストにしているということ。

・マテル社の重役は本当は11人中5人は女性だが、現実世界では男性が経済を回していることを皮肉として表現するために全て男性にしている。

・ギターで女性に歌を歌っていたケン達がバービー達に競い合いをさせられるシーンでは、ダンスバトルや、スポーツ、あるいは祭りのようなイメージになる。動物のオスが踊りが鳴き声などで戦うように、人類の男も戦いによって女性を獲得する文化があり、それは儀式的にスポーツや祭りに昇華されていることを表している。そしてまた、戦ったあとの男たちは仲間になっている。

・エンディングでAQUAの「愛しのバービーガール」が一瞬流れるが、マテル社はこの曲を当時訴えている。それにもかかわらず曲を採用しているマテル社の懐の深さもうかがえる。
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