ろく

バービーのろくのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.1
うーん、まず喋りすぎです。

結局、「伝えたいこと」があるために「映画」を利用しているんです。それが僕には納得いかない。この映画はあきらかなプロパガンダではないですか。確かに女性の権利、わかります。アファマティブアクションも個人的にはするべきだと思います。でもそのために「喋りすぎる」、それはどうなのかなと思ってしまうんです。だってそこまでしないと伝わらないんですか?




伝わらないんです。

確かにフィルマの人たちには「そこまでしなくても伝わる」かもしれません。映画のリテラシーだってしっかり持っているし複眼的に見ることもできる人が多い(少なくとも僕のフォロワーさんたちはそうじゃないかと感じています)。でもたまに映画でも見るか、観る映画がアニメかディズニー、せいぜいマーベル。ミッションインポッシブルやワイルド・スピードばかり。失礼を承知で言いますけど、そんな観客にも伝えないといけない。だからこの映画は思いっきり「入口を広くして」そこからなんとかこのテーマに持っていこうとしているんです。ある種のだまし討ちだと思ってます。

実際、先生という職業やってますといまだに(あれだけLGBTや女性の権利が話題になっているのに)そんなことを歯牙にもかけない人たちが多くいることに驚かされます。「この子は女の子だからそこまで勉強しなくていいんです」「次男にお金がかかるから上の娘は出来れば公立、無理なら就職でもいいんです」「どうせすぐ結婚するんだからあまりお金がかからないほうが」目を疑いますでしょうけど、すべて僕が聞いてきた言葉です。親の中(特に男親)にはいまだに「女は少し働いてあとは結婚」それが幸せだと信じている親が多くいます(えてしてその手の親はこちらの話に耳を傾けません。敬語で喋っていますけど会話にはならないんです)。非常に残念なことにそんなことを思っているのは「親」だけではありません。「子」にもそんなことを思っているのも多いです(ただこれは彼らが悪いわけでもないんです)。さらには娘も。僕の知っている子はまず父親の機嫌をうかがうらしいです。そうでもしないと家庭が崩壊するからと。DVまではいかないのですが、家庭内の権力はいまだに「残ってます」。

だから彼ら(あるいは彼女ら)にせめてもの一太刀を浴びせてしまおう。この映画はそんな気持ちとともに作られたのかしらと夢想してしまいます。でもそれは上手くいくのでしょうか。その手の人たちが「映画」を見るのでしょうか。そんなことを考えてしまいます。いやそれでも。そのためにとにかくこの映画は「入りやすく」しています。そして入って見ている内に「その手の人たち」に不穏な気分を抱かせます。喋りすぎ?喋りすぎです。だってそれとなく言ったところで「わからないから」。あるいは「わかろうとしないから」。

やっぱりこの映画はプロパガンダです。それは正しいプロパガンダかもしれません(今の時代には必要でしょう)。でも映画としては僕は少しだけ首をひねってしまいます。これは「その手の人たち」に見せる映画だと思うからです。そしてその手の人たちが「映画を観ない」ということも。

言葉が過ぎました。でもこの映画が日本ではあまり評価されてないのもなんとなくわかる気がします(フィルマの評価は別です)。女性の権利に対し日本のほうが遅れています(別にアメリカが進んでいると言う気はありません)。「女性はヒステリーだから」「やっぱり女じゃダメだよ」「結局女は詰めて仕事出来ないから」なぜ、「女性」という大きなくくりで「個人」と言う小さなくくりを語るんでしょうか。こんな映画は必要でしょう。僕はそれに対し賛辞を送ります。ただこんな映画を作らないといけない状況に少しさびしくなってしまうんです。
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