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アイリッシュマンのblacknessfallのレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
3.5
デ・ニーロ、パチーノ、ジョー・ペシをCG処理で若返らせてギャングの一代記をスコセッシが撮ったやつ。

スコセッシでこのメンツでギャング映画、何回目だよって感じだけど、このメンツでギャング映画のマスターピース『グッドフェローズ』(パチーノは出てない)を撮ってるわけで期待は大きかった。

第2次世界大戦後、除隊したフランク・シーラン(デ・ニーロ)はトラック運転手になった。あることが縁で全米トラック運転手組合の幹部でマフィアのバファリーノ(ジョー・ペシ)と知己を得えたことでマフィアの殺し屋になる。
その確かな仕事振りが認められ組合の会長、ジミー・ホッファのボディガード兼側近になる。

労働組合のボスと言うとショボく感じるかもだけど、このトラック協会は全米に多くの組合員を持ち資金も潤沢でそれをマフィアに裏ルートで融資することで、表社会にも裏社会にも絶大な影響を持ち労働組合と言うより政治にも食い込める力を持つ任侠団体と言った感じ、『アウトレイジ ビヨンド』の山王会に近い笑

なので会長のホッファ自身もマフィアのボスみたいなもので、邪魔者は例えマフィアであっても躊躇せず粛正する。そのホッファのダークサイドに深く関与していたフランク・シーランの回想なのでギャングと政治の闇とダイナミズムが暴かれる。アメリカのギャング史好きとしてはとても興味深く観れた。

その辺のことはマニアにはお馴染みだけどホッファて不思議な人で表ではトラックドライバーのために年金機構設立したり医療保険制度を作ったりと本当にトラックドライバーの生活の向上に寄与する働きをしてる。その剛腕からくるカリスマ性もあり絶大な人気を誇った。半面、集めた資金を私欲のために使ってる。そしてマフィアに融資する金をコントロールすることでマフィアすら支配下に置いて、裏社会でも最重要人物として君臨する。

名だたるギャング達とホッファの距離感、ケネディ家とギャング達の蜜月から敵対、アメリカの裏面史が生々しく画かれる。エロルイ始めとするノワール小説にも幾度となく記されてることなんで目新しくはないけど、スコセッシの俯瞰的で整理された構成でホッファの君臨のしかた、バランスの具合と存在感のリアルが克明になって、当時の空気感をリアルに感じられた。
出てくるギャング達のテロップで“1980年のどこどこで頭部を何発撃たれて死亡”とやたらと出てくる。いかにギャングの抗争が激しかったのかを物語る。まさに死屍累々。

そんな血生臭い抗争と政治との癒着で栄華を誇ったホッファとその恩恵に与るフランクだったが、ロバート・ケネディ(ケネディ大統領の弟)司法長官のマフィア追放キャンペーンの標的にされたことからホッファの没落が始まる。
使途不明金から詐欺で有罪になり服役することに、しかしケネディ大統領、ロバートが相次いで暗殺され、癒着していたニクソンが大統領になり恩赦で出所する。

かつての栄華を取り戻そうとトラック協会会長に再度就任しようと目論むホッファ、しかし服役中にパワーバランスが変わっていた。後任の会長に就任したホッファの部下はマフィアとホッファ以上に癒着、ホッファと違いマフィアに言われるまま資金を融資する後任をマフィアも支持、ホッファの居場所はなくなった。
追い詰められたホッファだが、まだ逆転の目はあった。それはかつて敵対した組合の幹部のマフィアに頭を下げ支持を取りつけること。しかし元々高いプライドが老年になり肥大し権力への執着から時流を読めなくなったホッファにかつての部下に頭を下げることは不可能だった。フランクや仲間達の助言にも耳貸さず、怒り狂い、あげくマフィアの資金流用を暴露してマフィアを組合から一掃すると宣言する。
このシーン、栄華を極めた男の見る影もない衰えと醜い妄執だけになったホッファの惨めさをパチーノが『スカーフェイス』のモンタナを彷彿とさせる狂躁的演技が冴え渡りこの映画の一番の見せ場になってた。あとロバート・ケネディをディスった「金持ちの息子が一番信用できないクソ野郎だ!」てセリフもよかった。金持ちの息子ばかりの政権与党のいいように詐欺られる我が国の現状とシンクロしてて痛快だった笑
それはともかく、全マフィアを敵に回したホッファの暗殺指令がフランクに下る。

公的な事実としてホッファは失踪して行方不明になり事件は迷宮入りになってるから、このフランクの告白の信憑性はどこまでか不明なんだけど、今まで見せられてきたマフィアの力学や行動から真実なんだろうと思えた。

ホッファを中心とした50年代から70年代のマフィアと政治のアメリカ裏面史が克明に見れた意味で知的好奇心を刺激されておもしろかった。けど、なんかダルくてけっこう観てて辛かった笑

原因は老いだと思う。デ・ニーロとかもCGで顔は若くても動きが緩慢でおじいっぽい瞬間がチラホラあるし声にも張りがなかったり笑、バイオレンスなんかもモサッとしてるんだよな、最近のセガールの映画みたいに笑
スコセッシもまあ老齢だからなのかもだけどグッドフェローズを思わせるようなソリッドかっこいいカット割りなんかもあるんだけど、全体的に編集が冗長。何がベテランバンドが昔の速い曲を今の落ち着いたテンポで演奏してるような、そんな切れのなさを感じた。
上映時間が長いのもあるけど、流れるテンポ、刻むリズムが遅いからグッと来なかった笑

でも、年老いたのにこういう血と暴力に溢れたテーマを選ぶスコセッシにはリスペクトしかない。
これからも、悪党達の栄光と破滅、わきまえることができない行き過ぎた男のエネルギッシュな話をどんどん撮ってほしい。
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