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アイリッシュマンのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
4.2
大物俳優三人の演技はさすが安定していて、三時間を超える作品ですが、長さを感じず、マフィアの世界に生きる男たちの悲哀と孤独に観入ってしまいました。

ジョーペシがやっぱり一番怖いですね。若い頃のジョーペシはいつキレるかわからない、沸点の低い、触るなキケン人物を演じていましたが、年を重ねて凄みが増し、ブレない策士の非情さが加わり、手を汚さない一番怖い人に感じました。

デ・ニーロが主役ですが、私はアルパチーノと役を替わった方が良かったように思いました。デ・ニーロの役はいわゆるパシリのチンピラで、恩義に忠実な言いなりですが、言いなりになるようなメンタルな弱さを感じず、冷徹な仕事人に甘んじられない、もっと野心をもつリーダーシップを強く感じました。必死に家族を守る愛情もあまり感じられなかった。豊かな余裕を感じるので、影の策士や黒幕そのものに向いている気がしました。こんなにスマートな頭脳だからこそナンバー2であり、身を守る地位にいたのかな。それならジョーペシやアルパシーノがその賢さや落ち着きや余裕を恐がると思うのですが。

一方、アルパシーノはどこか不安を抱いた目や感情がほとばしる表情等、地位への固執等、人の弱さを表現できて、感情移入しやすく、人間らしさを感じました。コントロールされるチンピラ役に向いている気がしました。改めていい役者だなと思いました。

ハーヴェイ・カイテルが出てくると、ようやく普通の感覚をもった人が出てきたと安心します。上の三人のアクの強さを中和してくれます。

アイルランド系もイタリア系もどちらもアメリカの移民の中ではマイノリティであり、祖先がたいへんに苦労したこと、その生活を支えたのが宗教(カトリック)と仲間意識、そしてファミリー。スコセッシ監督の『グッドフェローズ』や『ギャング・オブ・ニューヨーク』ではアイルランド系がギャングになっていく様子、『ミーン・ストリート』ではイタリア系アメリカ人のマフィアが描かれています。

男同士の仲間、組織(マフィア)に強い結びつきを感じるのは孤独だからかもしれない。孤独に追いやった原因は自分自身であるのに。

そういえばアジア系が全く出ていないのは何か理由があるのでしょうか。
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