Solaris8

裁きのSolaris8のレビュー・感想・評価

裁き(2014年製作の映画)
4.3
7/8 渋谷ユーロスペースで「裁き」を観てきた。

ある下水清掃人の死体が、ムンバイのマンホールの中で発見され、年老いた民謡歌手カンブレが逮捕される。彼の扇動的な歌が、下水清掃人を自殺へと駆り立て、自殺幇助罪の容疑なのだという。

被告と弁護側から見ると、理不尽極まりない容疑に思えるが、原告側の警察や検察側から見るとインドの社会を扇動する危険人物として見なされ、古い法律に照らし合わせると不条理とも言い切れない。

インドでの宗教と言えば、ヒンズー教でカースト制度が想い出されるが、法律上、カースト制度は否定されているそうで社会に矛盾や歪みが想像出来る。

映画の中で裁判を構成する弁護士、原告である警察、検察、被告やその仲間、被害者の家族の日常を描く事で、インドの複雑で歪んだ現在の社会的な構造が見えてくる。

映画の中で裁判を担当した上流階級の弁護士が沢山の聴衆を前に講演会を行い、壇上で喋り始めたタイミングで、見分が低い感じの作業員が暑さ対策用に現場の扇風機を一生懸命、設定するシーンが在る。

設定に時間が掛かり、不条理というか噛み合わないシーンの象徴なのだが懸命に作業している作業員を笑えない。

昔、トルコの故ギュネー監督の「路」を観た時、宗教や人種の間に翻弄される不条理を感じたが、不条理を乗り越えて力強く生きる住民の姿が印象に残った。「裁き」でも民衆詩人のカンブレの歌に圧倒され、ムンバイの人々に不条理でも破綻しない逞しさを感じる。

この映画の終盤で容疑が晴れた筈の民謡歌手カンブレが再度、社会を扇動したとして警察に拘束される。「共謀罪」法が施行される事になって、その事を意識して、この映画を観た訳では無いのだが人を裁くという事に重さを感じた。
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