伝説のトランペッター、チェットベイカーの転落から再生までを描く物語。
彼を愛し、正しい道に導こうとした恋人ジェーンによって「幸せ」を夢見るものの、芸術家としての本能に逆らえず苦悩の道を彷徨う主人公をイーサン・ホークが見事に演じ切っている。
結局、追い求めるものを手にしてしまった人間は生涯そこから抜け出せないのか。魅力的なものは、常に危ういものでしかいられないのか。
再起のかかったライヴの前、薬が切れ、ジェーンがいない待合室でチェットは耐えきれない重圧の前にある決断に揺れる。。
答えを知らされずとも、彼の求め手を伸ばす先がどちらなのか、わかってしまう。ラストの数分に、すべてが詰まっている。あの構成が、あの間が、素晴らしい。
ジャズ以外ではてんでダメ男で、ヤクから抜け出せない退廃的な主人公を救い出そうとした、ジェーンは恋人でありながらマネージャーであり母親であり、、ただ、真のトランペッターであったチェットの魂の理解者にはなり切れなかった。
音楽の高みへ「堕ちる」ことで到達する主人公と恋人が目線を交わすラストシーンが切なく、痛い。
