kumo

ルームのkumoのネタバレレビュー・内容・結末

ルーム(2015年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

 ドアの向こう側には外があること、世界があることを私たちは当たり前のように知っているし、もはや知っているという認識すらない。「部屋」が世界の全てで、外の存在すら知らないまま過ごした5年間は想像を絶する。それでも彼はちゃんと母親に愛されてまっすぐ育ったように思えるし、不幸だったのかと言われたらそうだとも断言できないと思った。
 子どもにとっての最善の方法は他にあったのではと問うインタビュアーの言葉があったが、おそらく出産も病院じゃなく部屋でしたんじゃないかと思うので病院の外に置いておく、なんてことはしたくてもできなかっただろう。それに、一生会えなくなるかもしれない、後で自分が報復を受けるかもしれない(最悪の場合は殺される)リスクを冒して、心を鬼にして我が子に死体のフリをさせた知恵と決断力と勇気は、自分が助かるためでもあるが母親として我が子の未来を守るという相当な覚悟がないとできないことだと思った。親子の全ての希望が懸かった実際の脱出シーンは、母親の決意じみた言葉と表情、それに怯えながらも必死に母の言葉を信じて行動する息子、それぞれの緊迫感がひしひしと伝わってきて息を呑んだ。子どもの違和感に気づいて声をかけて警察を呼んでくれた犬の飼い主さんのいい意味でのお節介加減に救われた。異変に気づき、声をかけられるって簡単なようで難しいので、私もそういう人でありたいと思った。めんどくさそうにしている男性警官を横目に、ジャックの言葉から見事に状況把握をして部屋の在処を導き出した警察官の女性はただただかっこよくて好き…となった。なにはともあれ、ジャックが一世一代の脱出時に頼りになる人に巡り会えて本当に良かった。
 事件に巻き込まれず、ただただ普通に平穏に暮らしていけるのが一番良かったのかもしれないけど、全ての出来事があったから、ジャックと共に生きていける今がある。過去の出来事は全て今の自分の一部ではあるけど、未来まで完全に支配するものではないのだということに気付かされた。また、どんな状況でも希望や自分の信念を諦めないことが未来を切り開いていく上での必要条件だと思った。
 「なんでも挑戦してみることにした」親子の姿に、見ているこちらまでふつふつと勇気が湧いてきた。希望の灯が心にぽっと灯るような映画だった。
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