小波norisuke

ルームの小波norisukeのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.1
もしなんの事前情報もなしにこの映画を観ることができたなら、倹しい暮らしのようではあるが、普通の親子だと思って見始めることができただろう。そして、何か異様であることを徐々に感じて、事実が明かされた時に驚愕しただろう。しかし、この映画を観るほとんどの観客は、観る前からこの親子が監禁されていることを知っている。それでも尚、 この小さな空間の特異さに震撼させられるだろう。

母親ジョイにとっては忌まわしい部屋でも、5才になったばかりの息子ジャックにとっては、その部屋だけが「世界」の全てだ。ジャックが生き生きと楽しそうにしている様子に、子どものたくましさを感じさせられた。

こんな境遇で、まだ19才の時に産んだ息子を愛し、一人で育てることができるものなのか。母親もとてもたくましい。

さんざん暴力を振るわれてきた男から、逃げる決意をすることは、どれほど勇気がいることか。部屋の外に一度も出たことのない、まだ5才の幼い息子に、苛酷なミッションを命じなければならなかった母親は、どんなに辛かったことだろう。初めて母親と離れて、外に出なければならなかったジャックは、どんなに恐ろしかったことだろう。二人の緊迫した思いがストレートに伝わってきて胸をえぐられた。

やっと自由になれても、急に広がった「世界」に、すぐには馴染めない。ジョイの実の父親は全く頼りにならないが、母親とその再婚相手がジャックを愛おしんでくれることに救われた。

とにかく主演の二人が素晴らしい。ストーリーがスリリングだし、心理描写も細やかで、すっかり引き込まれた。

旧約聖書に登場するサムソンは、髪を切ると力を失うが、ジャックは真に強いからこそ、自ら髪を切ることを決断し、髪を切ってますます強くなった。母親思いの健気なジャックの成長に泣かされる。人間の強さ、支え合うことの喜びを教えてくれた作品だ。
小波norisuke

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