かすとり体力

ルームのかすとり体力のレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
3.8
アカデミー賞作品賞ノミネートで評判も非常に良いということで気になっていたもの。

鑑賞して納得。一本の映画として純粋に面白い上に、この映画でしか描き得なかったものがしっかりと描かれている。

作品冒頭、母と息子(最初は娘だと思っていたが)がどこかに監禁され、おそらく長い年月そこで生活している、つまり「どう見ても非日常的な状況が日常となってしまっている」ことが、手際の良い情報開示により徐々に示される。

そのうちに、いわゆる犯人であるオールド・ニックが登場し、こいつの極悪非道な所業とその結果この親子が置かれている悲惨すぎる状況がクリアに理解され胸糞マックス。
そんな中でジャック、ほんとに君は真っすぐに育ってくれたものよ。お母さん偉い。

ということで、この時点ではこの状況からいかに脱出するかについて本作の多くの時間を割くんだろうと思っていたら、
(実際そのパートはめちゃくちゃスリリングに描かれるんだけれど)作品中盤であっさりそのくだりは完了しちゃうんだよな。

そう。
本作が描きたかったのはそこではない。
本作が描いていること。
それは、人がいかにして世界を獲得していくか、ということだ。

我々が世界を認識し受け入れていくという過程は基本的には物心がつくまでにそのベースを完了してしまうので、そこを描きたければ「物心がつくまでに世界を認識し受け入れていない存在」を登場させる必要がある。

そんな人物を登場させられるのって本作くらいやんけ。そう考えると超絶ロジカルな脚本。

もうね、この子、ジャックが初めて外の世界に出たシーンは言うに及ばず、彼が外の世界に出てからの一挙手一投足が、世界をありのままに見て、自分なりに咀嚼して、なんとか飲みこもう、受け入れようとしているように見えて、彼が置かれたハードゲーぶりとそれに負けずに生きていこうとしている姿のいじましさに、私は涙を流しそうになった。。

そしてその結果として描かれるラストシーン。

井戸の中で生まれ育った蛙、自分の世界の全てが井戸であった蛙が、一度大海を見た後に故郷である井戸を見たら、どのように感じるのか。

こういったこと、日々の生活の中でもめちゃくちゃあるよな。せつねぇ。

さて。
といったテーマについての描き方も最高だし、部屋から脱出した後の家族の描き方とかも、人間を下手に単純化せず、人間の複雑性や曖昧性のようなものを逃げずに描いており好感しかねぇ。

その結果、脱出後の日常生活にも多相な意味性を投影させられていて(お父さんの苦悩とか…)、ちゃんとそちらも、というかそっちこそを面白いパートとして構成させられているのは見事というほかない。

ということで、純粋に面白い上に色々と考えさせられることも多い、すんごい良い作品。
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