ふじこ

ボブという名の猫 幸せのハイタッチのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

ねこは可愛い。真理だ。
最初にねこを飼ってから20年以上経つし、今の愛猫とは8年一緒にいるけれど今でも毎日、目が合うだけでキュンとしてしまう。甘えられる度に自分の存在価値が高まる気さえする。
"必要とされている"と思えることが生きる活力になるし、それと同時にその生命に対して責任が生じる。

この物語の主人公である薬中の売れないミュージシャン、ジェームズもまさにそれだと思う。
彼には何もない。離婚して一時離れ離れになっていた、今は近くに暮らしている父ジャックは再婚しており、何時だってラリっている自分を恥じて距離を置いていると思っている。彼の再婚した妻も、露骨に避けている。
友人関係と呼べるのか怪しい知人も勿論薬中で、心配してくれるカウンセラーだけが彼を案じてくれているけれどあくまでもカウンセラーと患者の立場であって、代替薬物によって依存症克服を目指すジェームズの"何もなさ"に危機感を覚える。
彼をシラフの世界に繋ぎ止めておくものは何もなく、このまま路上生活を続けていればもう戻ってこなくなるのでは、と。
果たして彼女の予感は正しく、家を与えられそこで出会ったねこ"ボブ"と生活することで自身の命すら垂れ流していたジェームズはボブの命、延いては庇護者である自分の生活を立て直そうと向き合うようになる。
この物語の最大の功労者はボブであるのは間違いないのだけれど、何処にでもいる薬物依存症のホームレスだった彼に家を与える事を始めた彼女の功績も大きいと思った。

誰かが自分を必要としてくれている。
文字だけで綴るとこれだけの事なのに、生きる上でなんと大切な事なのだろう。
別にそれはねこじゃなくても良くて、どんな存在でも良くて、ただ彼の元には茶トラのねこボブが訪れた。選ばれるだけの資質がジェームズにあったのだと思うけど、それはボブにしか分からない。

一匹のねこがたまたま彼を見初めて、彼もそれに応えようと努力した。言ってしまえばそれだけの話が、ボブの可愛さ、彼の頑張り、支え続けたボブを介して知り合った友人や先のカウンセラー、二人の活動を見守る町の人や、それを記事にして読んだ人が居て、"いい話だな"と思える感性があって、それがはるか遠くの日本にも届いてニュースになって、本になって映画になる。
ねこ、可愛いな… が世界を巡る。

散々色んな記事で擦られ知り尽くしたお話だと言うのに、観ていて笑顔が止まらないし、なんなら彼が父親ときちんと向き合うシーンでは涙してしまった。父親と息子の話に弱いんだ…。

出演のねこちゃんがボブ本猫なのも いいね、となるし、何より本当に大人しくて良い子で、とにかく可愛い。実に知的なねこちゃんだ。

わたしのねこは何よりも甘えん坊でワガママで、弟ねこにオラついてばかりで余計な事しかしないけれど あぁ愛しているなあ と再確認出来たのも良かった。
きっとジェームズもこんな気持ちなんだろう。彼の幸せを願う。
ふじこ

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