小波norisuke

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男の小波norisukeのレビュー・感想・評価

3.5
思想・信条の自由は、アメリカの建国の精神の根幹であるはずだが、冷戦時代初期には反共主義がアメリカを席巻し、「赤狩り」が断行された。映画業界も難を免れず、多くの映画人が「ブラックリスト」に名を挙げられ、ハリウッドを追われた。ダルトン・トランボもその一人であり、議会での証言を拒否して実刑にまで処せられている。

 ブラックリストに載るまでは、トランボはハリウッドで一番ギャラの高い脚本家と噂され、「裕福な共産主義者(Swimming pool Soviet)」と揶揄された。英語表現が面白い。裕福であったがために、貧しい共産主義者からは信念を疑われたが、トランボは、家族も苦難に巻き込みながらも、決して信念を曲げず、脚本家として生きることを捨てず、したたかに反共主義の抑圧と闘った。その闘いぶりに励まされた。エンドロールで流れ?る本人の言葉が胸を打つ。
 
トランボが活躍した時代のハリウッド映画を知る人はより楽しめるだろう。あまり知らない私にはとても興味深かった。トランボが脚本を書いた「黒い牡牛」を観たいと思った。

ジョン・グッドマンが彼ならではの頼もしい役を好演している。とびきり嫌な役のヘレン・ミレンが巧い。政治的なテーマであるが、笑いを交えて楽しませてくれる。

 午前十時の映画祭で観た「追憶」、「ヘイル・シーザー」と赤狩りが登場する映画を観るのは今年3本目だ。赤狩りを正面から描いた本作を一番先に見ていたら、先の二作を違った視点で見ることができたと思う。

  高校の授業で赤狩りについて習った時は、冷戦はまだ終結していなかったが、赤狩りはさすがに過去の出来事だと思っていた。しかし、今はとても身近に感じてしまう。排他主義の風潮は、欧米でも日本でも強まっている。思想の自由も言論の自由も蝕まれているように思えてならない。芸能人が政治的発言をすることが難しいなんて異常だ。もしも自民党の改憲草案のままに憲法が変わったら、さらにこの傾向が強まることを免れない。そうならないことを願うばかりだ。
小波norisuke

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