Inagaquilala

無限の住人のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

無限の住人(2017年製作の映画)
3.7
木村拓哉にとっても三池崇史監督にとってもベスト・アクト、ベスト・ムービーではなかろうか。それほどこのふたりのマッチングがうまくいっているのには正直ちょっと驚いた。とくにオープニングのタイトルが出るまでのモノクロ映像の15分間、木村拓哉が100人斬りを見せるシーンは、かつての黒沢明作品を思わせるダイナミックな映像で圧巻だ。できればこのままモノクロで全編撮って欲しいと思ったくらいだ。

冒頭の100人斬りの後、800年生きているという尼僧の八百比丘から細胞を蘇らせる血仙蟲を仕込まれて不死身のからだとなってしまう元同心の万次(木村拓哉)。心臓を刃が貫いても、手首が取り落とされても、痛みは感じるものの、蟲により傷口は塞がれ、死が訪れることはない。

父を、逸刀流の統主である天津影久(福士蒼汰)に殺された浅野凛(杉崎花)は、八百比丘尼から万次の話を聞いて、自分の用心棒として復讐を手助けして欲しいと頼む。50年前に喪った自分の妹・町に似たおもかげを持つ凛に心を動かされた万次は「めんどくせぇ」と言いながらも彼女を助けることに。

物語は次から次へと万次の前に現れる逸刀流の剣士たちとの闘いがメインとなるが、その裏では幕府と手を結び、官営の武芸所の師範となり、逸刀流を天下唯一の流派として勃興させようとする天津影久の暗躍が蠢いていた。

もちろん見所は木村拓哉の殺陣と演技。セリフの言い回しは現代劇のそれとさして変わりはないが、これは監督の目論見でもある。元々、沙村広明のコミックが原作だが、登場人物の名前といい、不死身の剣士という設定といい、極めて時代劇らしくない物語なのだ。なので、三池監督としては、これまでにない剣客ヒーローを生み出そうとしている節がある。

木村拓哉は、片目を潰し、顔にも真一文字に傷痕を入れた特殊メイクで臨んでいるが、なかなかこれが堂に入っている。殺陣のシーンも不死身のからだゆえの自由な動きもあり、なかなか迫力がある。冒頭の100人斬りのシーンも素晴らしいが、逸刀流の剣士たちとの闘いも、それぞれに「個性」があってなかなか興味深い。

最後は幕府軍300人を相手にした大立ち回りとなるのだが、このシーンにはさすがの三池崇史監督、かなり長い時間を費やしている。敵が300人ということもあり、その演出に熱が入るのはわかるが、正直言ってこのシーンはやや長い感じがした。宣伝コピーでは「1人対300人」となっているが、厳密に言えば、逸刀流の天津影久+万次と幕府軍だから、「2人対300人」となるのだが、このふたりを同一のフレームで捉えたりして、なかなかに斬新な演出も効いてていた。

時代劇をやってもキムタクはキムタクのまま、という声も聞こえてはいるが、これはキムタクの個性をそっくりそのまま「万次」という不死身の剣客に移植した三池監督の勝利かもしれない。彼のたっての希望でこの設定が成り立ったとも聞いているので、このコラボレーションは見事に当たっている。

プロデューサーに「ラスト・エンペーラー」や「戦場のメリークリスマス」を手がけたジェレミー・トーマスの名前も見かけたが、海外でもウケる作品にもなっている。自分としては、この不死身の剣客の続編ができれば、このシリーズは木村拓哉の代表作になるのではないかと考えている。
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