tak

ジョン・F・ドノヴァンの死と生のtakのレビュー・感想・評価

3.8
どこからこの映画の感想を書こう。正直迷っている。グザヴィエ・ドラン監督作を観るのはこれが2本目。だから偉そうなことは言えない。だけどこの物語で、あれこれ考えさせられた。それを思いつくままに綴らせていただく。

家族にも誰にも言い出せずに抱えている気持ち。それを遠慮なく打ち明けられる人がいるなら、それは大切な存在だ。僕は絶対に失いたくない。ジョンが11歳の子役少年と続けた文通は、周りに理解されない孤独を抱えていた二人にとっては何事にも代え難いものだったに違いない。ジョンの死後10年経って、少年だったルパートがそのやり取りを出版することがこの映画の始まりだが、本編ではその手紙の内容で全てを明らかにすることはない。

そんじょそこらの映画なら、ジョンの素顔に観客だけは迫ることができ、結論めいたものを示してくれる。だが「僕らは理解されない」という台詞にもあるように、二人のやり取りを明らかにしたところで、万人に分かってもらえることはできなかったかもしれない。この映画は批評家に酷評されたと聞いた。感想を読んでると好意的な感想も共感する声も多い。分かってもらえなかったのはグザヴィエ・ドラン監督自身でもある。

ルパート少年が、大人たちからまるで嘘つきの狼少年みたいに扱われる場面は観ていて辛かった。さらに憧れのジョンにも裏切られるようなことになる。ジェイコブ・トレンブレイ君の叫びは耳に残っている。さらに大人たちが嘘だと罵ったジョンとの文通を、今度はマスコミが騒ぎ立てる。ジョンに同性愛の相手がいると騒がれたから?小児性愛と勘ぐった?それとも美談にしたかった?誰も本当のことを分かっちゃいないのに。

この映画は、母と息子の物語でもある。ナタリー・ポートマンが演ずるルパート少年の母は、女優のキャリアを捨てたシングルマザー。宿題の作文で息子の気持ちを知った母が、少年を追う場面は胸に迫る場面だった。また、スーザン・サランドンが演じたジョンの母親も出番が少ないが、最後には理解者であろうとしている気持ちを示す。浴室で家族で話し、ラジオの音楽で歌う場面も印象的だった。

僕自身も、分かってくれない、分かり合えない人々に日々苛立っていて、一方で分かってくれる誰かがいることを大切に思っている。だからこの映画で、ハートに刺さった場面や台詞がいくつもある。「"秘密の存在"は望むものじゃない」とか、いい表現だよな。だけど映画の感想としてうまく言葉にできない。

それはこの映画が、尺の割りに様々なテーマを織り込んでいるからかもしれない。元々はもっと長尺だったと聞くから、編集で言葉足らずになってしまったとも思える。しかし、それでも共感を呼んでいるのは、気持ちに向き合う真摯な映画だからだ。ポスタービジュアルと同じく、真正面から登場人物を捉えたショットが心に残っているのも、その理由なのかも。
tak

tak