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ノー・エスケープ 自由への国境のdeenityのレビュー・感想・評価

3.5
昨今話題になっているメキシコの不法移民問題を題材にしていて、88分という短めの上映時間を終始命を狙われ続けるという娯楽要素が強めの作品。
監督のホナス・キュアロンは『ゼロ・グラビティ』でお馴染みのアルフォンソ・キュアロンの息子。『ゼロ・グラビティ』の方が先に出て世間に認知されてはいますが、元々本作の影響を受けている部分も多いらしく、「あの緊迫感が味わえるなら」と劇場まで足を運びました。

実際どちらも絶望的な状況からの脱出を試みるという点では共通していて、自ずと作品の緊迫感も似てはくるのだが、正直どうしても父のそれには劣る部分が感じられた。

とは言えハラハラ感は終始持続し、特に前半でのカメラワークが後半にきて生きていた。作品冒頭で不法移民者が歩く速度で二分化され、先を歩く集団がライフルで皆殺しにされる。ここのカメラワークがしつこいくらいにピンのフルショットからの突然の狙撃。見えない所からの狙撃を第三者視点で見るのはやはり緊張感が凄まじい。画面上の人物が狙われているのがわかるからこその緊張。凄かった。皆殺しになった後、殺されたことではなく狙撃が終わったことへの安堵にも近い弛緩を感じた。
それを経てのラストのチェイスシーンは俯瞰とピンのバストショットのループ。何でもないバストショットが「狙われているのでは」といつ銃弾が飛んできても不思議でない緊張が続くのだ。この辺はさすがに上手かった。単に『ゼロ・グラビティ』と比較すると優劣はあるが、それでも十分楽しめるレベルのハラハラ感はあった。

しかし、本作はただの娯楽映画にはとどまらない。まさにメキシコの国境問題が話題になっている今、間違いなく見るべき作品だと思う。
なんせ本作の不法移民者を狙うのは国境警備隊とかでもなくただの猟師と犬。そして「俺の国だ」とか何とか言っちゃって人を撃ち殺す快感に酔いしれてるヤバ人で、理由らしい理由がそれしか見当たらないからまた怖い。まあ不法移民者に対するアメリカの印象を象徴的に具現化した姿でしょうな。

実際本作が作られたのはアメリカがトランプ政権になる前みたいですし、日本上映がたまたまこの時期に便乗したというだけで、意図して作られたわけではないとは思うが。それにしてもベストなタイミングで社会問題も含んだ娯楽映画として劇場で見ることができる本作はぜひ見て損はない作品でしょう。
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