こたつむり

メッセージのこたつむりのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.4
煙幕の向こう側にある理想論。

知的興奮に満ちた物語でした。
根底に流れるのは“言語が知性を作る”という思想。これは自分たちの言語を考えると納得できる話ですよね。日本人のきめ細やかさを反映するかのように日本語は複雑だし、英語で肯定するときは主の名を唱えるわけで。

だから、本作はSFのように見えますが。
実は“バベルの塔”が壊された頃から存在する“問題”を真正面から捉えた物語。それは幻想であり、理想。けれども、弛まぬ努力の先にあるはずの光。

そして、それを縦軸として。
横軸には、主人公の決意を織り込んだからこそ。物語の終着点に気付いた瞬間、鳥肌が立つのです。全ての存在を肯定するポジティブなエネルギーが涙腺を刺激するのです。

いやぁ。
相変わらず、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は最高ですな。とても丁寧に、そして力強く揺さぶってきました。これは内角高めピンポイントに直球を決めることが出来るコントロール能力の賜物。これ以上近いと死球になるし、遠くなると痛打されるギリギリ。ありふれた素材を一本の商業用映画として成り立たせる手腕は。うん。最高です。

また、とても新鮮だったのがジェレミー・レナー。彼が真面目な学者さんを演じているだけで口角が上がるのは…きっと、他の作品の影響。寡黙で乱暴だけど実直な男…という印象が強かったので新鮮でしたよ。うん。この人の存在感は面白いなあ。

まあ、そんなわけで。
ギリギリ滑り込みでしたが、劇場で鑑賞できて良かったです。大画面の迫力を求める作品ではありませんが、劇場の凛とした雰囲気に見合っていました。ただ、どちらかと言えば“事前情報シャットアウト”系ではありますね。真っ新な気持ちの方が十二分に楽しめます。

そして、最後に。
監督さん本人が「あの乗り物の形状は、“ばかうけ”に影響されたのだ」と言ったのは…なかなかユニークなPRでした。いっそのこと、邦題は『ばかうけ』に変えれば良かったのに。そうすれば、本作の“メッセージ”も更に際立ったと思うのですけどねえ。

※ “ばかうけ”は(株)栗山米菓の商標です。たぶん。
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