ふじこ

フランス組曲のふじこのネタバレレビュー・内容・結末

フランス組曲(2015年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

前情報なしに視聴。

1940年、第二次世界大戦下のフランスの小さな町。
小作人を抱える裕福な家に嫁いたリュシルは、出征した夫を待ちながら義母と2人で暮らしている。
そこにドイツ軍がやってきて、町の人たちの家を徴発し同居することに。

一緒に住むんだ…、強制的に出て行かせたりはしないんだなあ。
そこでやってきたブルーノ中尉の他の兵たちと違う紳士的な態度と、リュシルと同じく音楽を愛する姿勢に惹かれていく。それは中尉も同じ。

しかし彼は占領しに来た敵軍兵士であり、義母は非常に煩いタイプ、町の人の目もあるし、交流のある家に住み着いたドイツ人将校は足の悪い夫ブノワを挑発した上で明らかにその家の奥さんを狙っている。
父に言われて裕福な家に嫁いだけれども一度も愛を実感することのなかった夫の愛人と隠し子、それを知っていて黙っていた義母と中尉に激昂したりもする。
それでもあくまで隠れながら、密やかに、それでも惹かれ合っていく2人。

そんな中、ブノワは町長の鶏を盗んだ容疑の上、妻を狙っていた将校を撃ち殺してリュシルの家に逃げてくる。
ブノワに息子の面影を見た義母の協力を得て匿い、パリへと逃がす為にブルーノ中尉に許可証を貰って車を走らせるリュシル。

しかしブノワを探して家探しをされた際に疑問を持たれた煙草の匂いから、通行許可証にはリュシルの車を精査するよう指示が書き込まれていた。
その事実を知ってバイクで後を追うブルーノ中尉。しかし追いついた時にはトランクを開けられブノワが撃ち殺したドイツ兵と、震えながらブルーノ中尉に銃を向けるリュシル。
何も言わずに撃たれたブノワを車へ乗せ、見送ってくれる。

ブノワを匿っていた事、中尉を騙して許可証を得た事、それでも2人の間の愛情は嘘ではなかった事。表情や空気感から読めて取れるし、きっと逢えるのはこれで最後と分かっていながら一言も言葉を交わさずに別れる2人。
リュシルは戦後になってから、ブルーノ中尉は戦死した事を知る。


アウシュビッツの収容所で亡くなった一人の作家の女性の残した未完の作品の一遍であり、亡くなった原作者の娘が受け継いで60年経ってから出版した本なのだと知った。
悲しみや辛さと向き合うのに60年以上掛かって、やっと亡き母親のトランクを開けて見つけたのがこの物語の原稿だったのだと言う。
全5部作の内、これを含む2作を書き終えた処で亡くなってしまったのだそうだ。

戦時中の許されぬ恋を描いた作品であり、普段あんまり恋愛ものは観ないけれど、この作品の真価は観終わってからの字幕にあった。
流行の作家でありながらユダヤ人であったが為に幽閉された原作者イレーヌ・ネミロフスキーは一体どのような気持ちでこれを書いたのだろう。

映画自体の物語としてはよく出来てはいたものの、戦時中の恋愛物語として 無きにしも非ず みたいな感じではあった。舞台と違う言語で話していたりするのは別に気にしない。映画はあくまで映画だと思っている。

”母が蘇ってうれしい ナチスは母を殺せなかった 彼女の勝利だ”
けれど最後に表示される原作者の娘のコメントが映画を映画で終わらせず、リュシルのその後のみならずこの物語をどのようにして創ったのだろう、と考えさせられる点で新しく、戦時中の彼女たちの物語にひとつ華を添えるようだった。
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